本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
分裂(防衛機制)とは
分裂(splitting)は防衛機制の一つで、自分自身や他者を「完全に良い」か「完全に悪い」かの二極で認識する心理メカニズムです。メラニー・クライン(Melanie Klein)が乳児期の心理発達の基本メカニズムとして概念化しました。
また、「あの人は最高の人」が些細なことで「最低の人」に変わる。グレーゾーンのない「白か黒か」の認知パターンが分裂の特徴です。
- 対象を「オール・グッド」か「オール・バッド」で認識する
- 同一人物の良い面と悪い面を統合できない
- 乳児期には正常だが、大人で頻用すると対人関係が不安定になる
補足:防衛機制とは
防衛機制とは、認めがたい自分自身の感情や欲求、不安や葛藤などといった「耐えがたい感情」を感じずにするための無意識の”対処法”のことです。例をいくつか見てみましょう。
- 反動形成
本心とは反対の行動を取る(例:好きな女の子に意地悪をする) - 知性化
知識を用いて客観的に処理しようとする(例:フラれた理由を冷静に分析する) - 合理化
自分に都合の良いように事実を歪曲して「自分は正しい」と納得する(例:フラれたときに「あんな性格が悪い人とは付き合わなくて正解だ」と思い込む)
精神分析の創始者であるオーストリアの精神科医「ジークムント・フロイト」が提唱し、後に娘の「アンナ・フロイト」によって、さらに体系化されました。
分裂とは#1
クラインの「妄想-分裂ポジション」
クラインは生後数ヶ月の乳児が「妄想-分裂ポジション」という心理状態にあると考えました。授乳してくれる母親は「良い乳房」、授乳しない母親は「悪い乳房」として、同一の母親を二つに分裂させて認識するのです。
また、健全な発達では、生後6ヶ月頃から「抑うつポジション」に移行し、良い面と悪い面を持つ一人の母親として統合できるようになります。
分裂とは#2
理想化と脱価値化のサイクル
大人における分裂は「理想化(idealization)」と「脱価値化(devaluation)」のサイクルとして現れます。最初は相手を理想化し「完璧な人」と持ち上げますが、期待が裏切られると一転して「最低の人」に切り下げます。
- 理想化:「この人は今まで出会った中で最高の人だ」
- 脱価値化:「この人は最低だ。信用できない」
- このサイクルが繰り返され、関係が不安定になる
分裂の具体例
ここでは分裂が日常生活でどのように現れるかを具体例で説明します。
具体例#1
恋愛の「神格化」と「悪魔化」
交際初期にパートナーを「運命の人」「完璧な相手」と理想化し、些細な欠点が見えると「最悪の人」に評価が急転する恋愛パターンは分裂の典型です。
また、「良い部分も悪い部分もある一人の人間」として統合的に認識することが難しく、理想化と脱価値化を繰り返します。
具体例#2
職場の「味方と敵」の二分化
職場の人間関係を「完全な味方」と「完全な敵」に二分して認識するのも分裂です。「あの部署は全員が敵だ」「この人だけが信頼できる」という極端な認知パターンです。
- 上司を「最高のリーダー」と持ち上げたかと思えば「無能」と切り捨てる
- チームを「優秀な人」と「ダメな人」に明確に分類する
- 一度でも失望させた人を完全に信用しなくなる
具体例#3
SNSでの極端な評価
有名人や企業に対する「大好き→大嫌い」の急転換もSNS上での集団的分裂と言えます。応援していた人の一つの言動で「もう無理」「裏切られた」と全否定に転じるパターンです。
また、SNSの短文形式はニュアンスのある表現を困難にし、白黒思考を助長する側面があります。
分裂と関連する防衛機制
関連する防衛機制#1
分裂と投影の連動
分裂は投影と組み合わさって機能することが多いです。自分の「悪い部分」を分裂で切り離し、それを他者に投影するというパターンです。
また、自分の攻撃性を切り離して他者に投影すると、「あの人は攻撃的だ」という認知が生まれます。分裂+投影のセットは対人関係のトラブルの大きな原因になります。
関連する防衛機制#2
分裂と否認の共存
分裂には否認が伴うことが一般的です。相手を理想化しているとき、相手の欠点は否認されています。逆に脱価値化しているとき、相手の良い面が否認されています。
また、分裂の本質は「統合の困難」です。良い面と悪い面を同時に抱えることへの耐えられなさが、片方を否認する動機になっています。
分裂への気づき方と対処法
ここでは分裂への気づき方と対処法を説明します。
気づき方と対処法#1
「極端な評価」に気づく
分裂に気づくための最も確実なサインは、人や状況に対する評価が極端に揺れ動くパターンです。
- 人への評価が短期間で「大好き」から「大嫌い」に変わる
- 「全部良い」か「全部ダメ」という考え方をしがちである
- 一つの失望で相手への評価が全面的に変わる
気づき方と対処法#2
「グレーゾーン」を意識する
分裂への対処は「グレーゾーン」の認知を育てることです。「この人には良いところもあれば悪いところもある」という統合的な認知を意識的に練習しましょう。
また、相手に失望したとき、「それでもこの人には○○な良い面がある」と思い出す習慣が、分裂的な認知を緩やかに統合的な認知へ変えていきます。
