本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
取り入れ(防衛機制)とは
取り入れ(introjection)とは、防衛機制の一つで、他者の価値観・態度・行動パターンを丸ごと自分の中に取り込む心理メカニズムです。フロイトが超自我の形成過程を説明する際に重要視した概念で、「摂取」とも呼ばれます。
たとえば、厳格な親のもとで育った人が、大人になっても自分に対して厳しい内なる声を持ち続けることがあります。親の批判的な態度が「取り入れ」られ、自分自身の一部になっているのです。本人は「これが自分の価値観だ」と思っていますが、実際には外部から取り込んだものをそのまま内面化している状態です。
- 他者の価値観・態度をそのまま自分のものとして取り込む
- 投影の逆のプロセス(投影=自分→他者、取り入れ=他者→自分)
- 超自我(良心・内なる批判者)の形成に深く関わる
補足:防衛機制とは
防衛機制とは、認めがたい自分自身の感情や欲求、不安や葛藤などといった「耐えがたい感情」を感じずにするための無意識の”対処法”のことです。例をいくつか見てみましょう。
- 反動形成
本心とは反対の行動を取る(例:好きな女の子に意地悪をする) - 知性化
知識を用いて客観的に処理しようとする(例:フラれた理由を冷静に分析する) - 合理化
自分に都合の良いように事実を歪曲して「自分は正しい」と納得する(例:フラれたときに「あんな性格が悪い人とは付き合わなくて正解だ」と思い込む)
精神分析の創始者であるオーストリアの精神科医「ジークムント・フロイト」が提唱し、後に娘の「アンナ・フロイト」によって、さらに体系化されました。
取り入れのメカニズム
取り入れは特に幼少期の発達過程で重要な役割を果たします。子どもは親や養育者の価値観・ルール・態度を丸ごと取り込むことで、「良いこと」「悪いこと」の基準を形成していきます。これがフロイトの言う「超自我」の基盤です。
また、健全な発達では、取り入れた内容を成長とともに吟味し、自分に合わないものは手放していきます。しかし、取り入れが防衛として過度に働くと、他者の価値観を批判的に検討することなく丸飲みする状態になります。
取り入れと同一視の違い
取り入れと同一視(identification)は似ていますが、統合の度合いが異なります。
また、取り入れでは、他者の特徴がほとんど消化されずに「異物」のまま内面に存在します。一方、同一視では他者の特徴が自分の人格と統合され、自然な一部として機能します。食事にたとえると、取り入れは「丸飲み」、同一視は「咀嚼して消化する」イメージです。
- 取り入れ:他者の価値観を丸ごと取り込む(未消化のまま)
- 同一視:他者の特徴を自分の人格に統合する(消化・吸収される)
取り入れの具体例
ここでは取り入れが起きる典型的な場面を説明します。
具体例#1
親の批判的な声が内なる声になる
「お前はダメだ」「もっと頑張れ」と言われ続けて育った人が、大人になっても自分の中に常に批判的な声が聞こえるケースです。その声は親のものですが、本人は「自分がそう思っている」と認識しています。親の批判的な態度が取り入れられ、内なる批判者として機能しているのです。
具体例#2
失った人の特徴を取り込む
大切な人を亡くした後に、その人の口癖や趣味、価値観を自分のものとして取り込むことがあります。「失った対象を自分の中に保持する」ことで、喪失のつらさを和らげようとしているのです。
これはフロイトが「喪の作業」の中で論じた現象で、悲嘆プロセスの自然な一部です。
具体例#3
攻撃者との同一化
虐待やいじめを受けた人が、加害者の態度を取り入れて自分も攻撃的にふるまうようになるケースです。アンナ・フロイトが「攻撃者への同一化」として記述した現象で、無力感に対する防衛として、加害者の力を自分のものにしようとします。
取り入れへの気づき方
取り入れは「自分の価値観」として定着しているため、気づくのが非常に難しい防衛です。以下のサインが手がかりになります。
- 「〜すべき」「〜であるべき」という考えが自分を苦しめている
- 内なる批判者の声が特定の人物(親・教師など)に似ている
- なぜその価値観を持っているか説明できない
- 自分の意見なのか他者から取り入れた意見なのか区別がつかない
対処方法
ここでは取り入れに気づいたときの対処方法を説明します。
対処方法#1
「この声は誰のものか」を問う
自分を批判する内なる声が聞こえたとき、「この声は本当に自分のものか、それとも誰かから取り入れたものか」と問いかけてみましょう。出どころがわかるだけで、その声の影響力は弱まることがあります。
対処方法#2
価値観を吟味する
「〜すべき」と感じるとき、その価値観を自分で選んだのか、それとも他者から受け継いだだけなのかを検討してみましょう。今の自分にとって本当に必要な価値観かどうかを改めて判断することが大切です。
対処方法#3
カウンセリングで「内なる声」と向き合う
取り入れが深く根づいている場合は、専門家の支援を受けながら、内面化された他者の声と自分自身の声を区別していく作業が効果的です。ゲシュタルト療法の「空椅子の技法」なども、取り入れに気づくための有効な方法です。
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