本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
潜在学習とは
潜在学習(Latent Learning)とは、報酬や罰などの明示的な強化が与えられなくても環境を探索・体験するだけで学習が成立し、その学習内容が適切な動機づけが生じたときに初めて行動として現れる現象のことである。
Blodgett(1929)の研究を端緒として、Tolman & Honzik(1930)のラット迷路実験によって広く知られるようになった。当時の強化中心の学習観に修正を迫る重要な証拠となっている。
- 強化なしで環境を体験することで「認知地図」が形成されると解釈される
- 学習した内容は動機づけが与えられるまで行動として現れない(潜在している)
- 強化を重視する学習観に対して、認知的な学習観を支持する根拠となる
潜在学習のメカニズム
Tolman & Honzik(1930)の迷路実験では、3グループのラットを用いた。第1グループは強化あり、第2グループは強化なしで迷路を走らせ、第3グループは最初の10日間を報酬なしで探索し、11日目から食物報酬を導入した。
第3グループは報酬導入後にエラー数が急速に減少し、報酬を受け続けた第1グループに近い成績を示した。これは報酬なしの期間に「認知地図」が形成されていたと解釈され、動機づけによって潜在していた学習が行動として現れたとされる。
潜在学習と似た概念との違い
潜在学習と混同されやすい概念が「観察学習」と「洞察学習」である。観察学習は他者の行動を見ることで成立する学習であり、潜在学習のように自ら環境を体験することとは異なる。
洞察学習は問題解決時に突然「分かった」という理解が生じる現象であり、どちらも行動に現れる前に認知的過程が関与する点で関連する。ただし洞察には認知的な再構成が伴う点で潜在学習と区別される。
- 潜在学習:
強化なしの直接体験・探索によって学習が成立。動機づけが生じるまで行動に現れない。 - 観察学習:
他者の行動観察によって成立。直接体験を必要としない。 - 洞察学習:
問題解決時の突然の理解。認知的再構成が伴う。過去の体験が素材になる点で潜在学習と関連する。
潜在学習の具体例
ここでは潜在学習が実際にどう現れるかを具体例で説明する。
具体例#1
街の地理を無意識に覚える
毎日の通勤・散歩・買い物で歩き回る中で、特に意図しなくても街の地理・抜け道・店の場所を無意識に習得していることがある。これは強化なしの日常体験による潜在学習である。
生活圏の中で「あのお店はどこだっけ」と地図を見ずに行けるようになるのは、この学習が行動として現れた例である。
具体例#2
業務経験による暗黙知の蓄積
新入社員が日々の業務に携わる中で、特に意識せずに職場のルール・人間関係・問題解決のコツを体得していくことがある。これらの暗黙知は明確な報酬で強化されたわけではない。
しかし状況が変わったときや問題が生じたときに突然行動として発揮されることがある。潜在学習の職場版といえる。
具体例#3
幼少期の言語環境からの言語習得
乳幼児が周囲の会話を聞き続ける中で、明示的な強化に依存せず語彙や文法に触れていく過程は、広義には潜在学習に近い例として説明できる。明示的な強化なしの環境体験が学習に寄与しているという点で、トールマンの主張と方向性が一致する。
編集部潜在学習は、行動として表れる前に学習が進んでいる点を示す概念です。
関連する概念
- 観察学習
強化なしで成立するという点で共通するが、潜在学習は自分の直接体験、観察学習は他者の行動観察が源となる。 - 洞察学習
過去の体験が素材として蓄積されるという点で潜在学習と関連する。しかし洞察は突然の認知的再構成が核心となる。 - オペラント条件付け
強化を学習成立の中核に置く枠組み。潜在学習はこの前提に修正を迫り、強化なしでも学習が成立しうることを示した。
潜在学習を活用する方法
- 試験・評価と直接関係しなくても多様な経験・読書・観察の機会を与え、知識の潜在的な蓄積を促す
- 「今は役に立たない」と思われる学習も将来の問題解決の素材となるため、探索的な学習活動を制限しすぎない
- 潜在している知識を引き出すには適切な動機づけと問いかけが必要であり、学習者に問題や課題を与えることで潜在学習を行動へ転換させる
