精神障害のある方の採用では、病名だけで合否を決めず、職務要件と配慮の相談手順を先に整えることが重要です。
同じ診断名でも、働きやすい時間帯、疲れやすい場面、相談しやすい方法は人によって異なります。
この記事では、企業の人事・現場責任者向けに、採用計画から入社後の定着確認までを8フェーズで整理します。
最初に決めること
- 任せる業務の範囲と、優先順位の変わりやすさ
- 合理的配慮を相談する窓口と、記録を残す形式
- 体調変化時に、誰が業務量や勤務時間を見直すか
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
精神障害のある方の採用で押さえる前提
精神障害のある方の採用では、診断名、手帳等級、過去の休職歴を単独で評価軸にしないことが前提です。
企業側が見るべきなのは、候補者が担当業務を行ううえで、どの条件なら力を発揮しやすいかです。
前提#1
診断名ではなく職務要件から確認する
採用判断の出発点は、応募者の病名ではなく、担当予定の職務要件です。
たとえば、電話対応、納期の短い処理、急な割り込み、対人調整がどの程度あるかを先に分けます。
そのうえで、本人が申し出た配慮と照らし合わせると、採用可否ではなく配置方法の検討に移れます。
前提#2
合理的配慮は本人との対話で決める
雇用分野の合理的配慮は、本人と事業主の相互理解の中で提供される性質のものです。
希望どおりの対応が難しい場合も、過重な負担にならない代替案を話し合う流れが基本です。
出典:厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」(2026年5月28日確認)。
前提#3
医療情報は必要最小限に扱う
面接では、本人の適性・能力に関係のない情報を広く聞き出さないようにします。
病名や服薬内容を確認するより、仕事を進めるうえで必要な配慮、連絡方法、避けたい業務条件を聞く方が実務的です。
出典:厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」(2026年5月28日確認)。
採用プロセスを8フェーズで点検する
精神障害のある方の採用は、面接だけで完結しません。
採用計画から定着確認まで、次の8フェーズに分けて確認すると、抜け漏れを減らせます。
| フェーズ | 確認すること | 残す記録 |
|---|---|---|
| 採用計画 | 任せる業務と現場負荷 | 候補業務リスト |
| 職務設計 | 優先順位と変更頻度 | 業務要件表 |
| 求人票 | 勤務時間、通院、相談先 | 求人票案 |
| 職場見学 | 音、照明、人の出入り | 見学メモ |
| 面接 | 配慮の希望と業務遂行条件 | 質問記録 |
| 内定後 | 配慮の一次案と共有範囲 | 合意メモ |
| 入社初期 | 業務量と相談頻度 | 面談記録 |
| 定着期 | 評価、配慮、支援機関連携 | 見直し記録 |
求人票と職務設計で整える項目
採用前の設計では、候補者に求める能力を曖昧な言葉で置かないことが大切です。
業務量、対人場面、納期、相談先を具体化すると、本人も支援者も働く場面を想像しやすくなります。
採用前#1
業務の優先順位を見える形にする
精神障害のある方の採用では、複数業務を同時に渡すより、優先順位を見える形にした方が安定しやすくなります。
日次業務、週次業務、突発対応を分け、どの業務を先に行うかを担当者が確認できる形にします。
採用前#2
勤務時間と休憩の変更条件を書く
求人票には、勤務時間、休憩場所、通院時の相談方法、残業の発生頻度を可能な範囲で書きます。
「配慮します」だけでは、応募者は何を相談できるのか判断できません。
週の勤務時間を段階的に増やす可能性があるなら、入社後の見直し時期も明記します。
採用前#3
職場見学で環境負荷を確認する
職場見学では、音、照明、人の出入り、電話量、休憩場所を本人が確認できるようにします。
見学後に「働くうえで気になる点」を聞くと、面接だけでは出にくい配慮事項が見えます。
- 担当業務の例と、1日の作業量の目安
- 相談先、休憩場所、通院時の申請方法
- 残業、繁忙期、突発対応が発生する場面
面接で確認すること
面接では、病名の詳細ではなく、担当業務を行うために必要な条件を確認します。
本人が話したくない医療情報まで聞き出すと、公正な採用選考から外れるおそれがあります。
面接#1
事前に面接環境を伝える
面接前に、所要時間、面接官の人数、当日の流れ、質問予定の範囲を伝えると不安を減らしやすくなります。
オンライン面接や分割面接を選べる場合は、選択肢として案内します。
面接#2
配慮事項は業務場面に結びつけて聞く
配慮の確認は、担当業務とセットで聞くと、本人も具体的に答えやすくなります。
| 確認軸 | 質問例 | 目的 |
|---|---|---|
| 業務量 | 作業量が増える時期に、事前に分かると助かることはありますか。 | 繁忙期の調整 |
| 相談 | 困ったときは、口頭、チャット、面談のどれが相談しやすいですか。 | 相談経路の設計 |
| 休憩 | 集中が切れたときに、短い休憩で戻りやすい方法はありますか。 | 業務継続の支援 |
| 通院 | 勤務日や時間帯で、事前に調整が必要なことはありますか。 | 勤務条件の確認 |
面接#3
聞かないことを面接官でそろえる
面接官ごとに質問がぶれると、本人に責められている印象を与えることがあります。
病歴、家族状況、服薬名、通院先を細かく聞くのではなく、業務遂行に必要な配慮の確認に絞ります。
出典:厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」(2026年5月28日確認)。
内定後から入社初期の合意形成
内定後は、配慮事項を「誰が、いつ、どう見直すか」まで決めます。
入社前に一次案を置き、入社後の実際の勤務状況を見ながら調整する前提にすると、過不足を修正しやすくなります。
内定後#1
配慮事項の一次案を記録する
配慮事項は、本人、直属上司、人事で確認し、合意メモとして残します。
勤務時間、休憩、相談方法、緊急時の連絡先、共有範囲を分けて書くと、現場で迷いにくくなります。
内定後#2
共有範囲は本人同意を前提にする
現場へ共有する情報は、業務上必要な範囲に絞ります。
診断名を広く共有するより、相談先、避けたい業務条件、体調変化時の連絡手順を共有する方が実務に直結します。
内定後#3
支援機関との連携方法を決める
本人が利用している支援機関がある場合は、同意を得たうえで、連絡窓口と相談場面を決めます。
ジョブコーチ支援は、本人への支援だけでなく、事業主や職場への助言も含みます。標準的な支援期間は2〜4か月です。
出典:JEED「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援」(2026年5月28日確認)。
疾患群別に見る配慮の重心
疾患名は、採用可否を決めるラベルではありません。
ただし、業務負荷や相談方法を考えるときの着眼点として、疾患群ごとの特徴を知っておく意味はあります。
疾患群#1
うつ病などの気分障害は業務負荷を段階化する
うつ病では、気分の落ち込みだけでなく、眠れない、疲れやすいなどの身体症状が出ることがあります。
採用時は、長時間労働や急な残業を前提にせず、業務量を段階的に増やせるかを確認します。
出典:NCNP精神保健研究所「こころの情報サイト うつ病」(2026年5月28日確認)。
疾患群#2
双極性障害は調子の波を前提に運用を決める
双極性障害では、躁状態とうつ状態の波があり、本人が調子の変化に気づきにくい時期もあります。
企業側は医療判断をせず、勤務量、連絡頻度、優先順位の変更を早めに相談できる仕組みを置きます。
出典:NCNP精神保健研究所「こころの情報サイト 双極性障害」(2026年5月28日確認)。
疾患群#3
不安症は予測可能性を高める
不安症では、強い不安から特定の状況を避けることがあり、仕事や行動に影響が出る場合があります。
面接や入社初期では、急な予定変更、初対面の場面、電話対応など、負荷が高い場面を事前に整理します。
出典:NCNP精神保健研究所「こころの情報サイト 不安症」(2026年5月28日確認)。
疾患群#4
統合失調症は情報量と相談体制を整える
統合失調症では、認知機能、会話、意欲、感情面に変化が出ることがあります。
採用後は、指示を一度に詰め込まず、担当者、作業手順、相談タイミングを固定すると確認しやすくなります。
出典:NCNP精神保健研究所「こころの情報サイト 統合失調症」(2026年5月28日確認)。
採用後に定着を確認する方法
入社後は、配慮を固定メニューにせず、業務状況に合わせて見直します。
評価、配慮、体調確認を混ぜないことで、本人も現場も話し合いやすくなります。
定着#1
入社初期は短い面談を定例化する
入社1〜3か月は、週1回から隔週程度の短い面談を設定します。
確認するのは、業務量、優先順位、相談しやすさ、疲労が出る場面です。
定着#2
変化が出たら原因を業務側から見る
遅刻や欠勤が増えたときは、本人の意欲だけで判断しません。
業務量、急な変更、対人負荷、通院、睡眠リズムなど、仕事側で調整できる要因を分けます。
定着#3
評価と配慮の線引きを残す
合理的配慮は、評価をしないことではありません。
業務目標、配慮内容、評価基準を分けて記録すると、本人にも現場にも説明しやすくなります。
面談で確認する項目
- 今週の業務量は多すぎないか
- 相談先と相談方法は機能しているか
- 配慮を続けるもの、変えるもの、終了するものは何か
精神障害のある方の採用に関連する記事
障害特性別の設計を深掘りする場合は、次の記事もあわせて確認してください。
よくある質問
精神障害のある方の採用で、人事からよく出る疑問を整理します。
FAQ#1
面接で病名を聞いてもよいですか
病名そのものを確認するより、担当業務を行ううえで必要な配慮を聞く形にします。
本人から病名の説明があった場合も、合否判断ではなく、職務要件と配慮相談に結びつけて扱います。
FAQ#2
主治医の意見書を依頼してもよいですか
業務上必要な範囲で、本人同意を得たうえで依頼するのが前提です。
依頼内容は、診断名の確認ではなく、勤務時間、業務負荷、避けたい条件などに絞ります。
FAQ#3
勤怠が不安定になったらどう対応しますか
まず、安全確認と業務影響の整理を分けます。
そのうえで、勤務時間、業務量、相談頻度、支援機関連携を見直し、必要な記録を残します。
FAQ#4
手帳等級で採用可否を判断してよいですか
手帳等級は制度確認には使いますが、職務適性をそのまま示すものではありません。
採用では、職務要件、本人の経験、配慮の相談内容、現場での支援体制を分けて判断します。
まとめ
精神障害のある方の採用では、病名を起点にせず、職務要件と配慮相談の仕組みを先に整えます。
採用計画、求人票、面接、内定後、入社初期、定着期を分けて確認すると、本人にも現場にも説明しやすくなります。
配慮は一度決めて終わりではありません。面談記録と業務記録をもとに、働き続けられる条件を定期的に見直しましょう。
