聴覚障害のある方の採用では、聴力や手話の有無で一律に判断せず、音声情報をどう見える化するかを先に設計します。
面接、会議、電話、緊急連絡のどこで音声に依存しているかを棚卸しし、本人と合意できる代替手段を用意することが出発点です。
この記事では、企業の人事・現場責任者向けに、求人票から入社初期までの配慮設計を実務目線で整理します。
最初に決めること
- 面接や説明会で使う情報保障の方法
- 会議、朝礼、電話、緊急連絡の代替手段
- 本人同意を前提にした共有範囲と記録方法
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
聴覚障害のある方の採用で押さえる前提
聴覚障害のある方の採用では、障害名よりも業務で必要な音声情報の扱いを確認することが重要です。
同じ聴覚障害でも、手話、筆談、口話、補聴器、人工内耳、字幕など、使いやすい手段は人によって異なります。
そのため、人事は診断名や等級を評価材料にするのではなく、職務要件と配慮方法を分けて確認します。
前提#1
聴こえ方だけで業務適性を決めない
聴覚障害は、音の大きさだけでなく、言葉の聞き取りや雑音下での理解にも影響することがあります。
たとえば、静かな面談室では会話できても、朝礼や複数人会議では聞き取りにくい場合があります。
採用判断では「聞こえるか」ではなく、必要な情報をどの手段で受け取れるかを確認します。
前提#2
合理的配慮は本人との対話で決める
雇用分野の合理的配慮は、募集・採用時と採用後のどちらにも関係します。応募者から申し出があった場合は、支障と実施可能な措置を話し合います。
希望された方法が難しい場合も、過重な負担にならない代替案を本人と検討する流れが基本です。
出典:厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」および合理的配慮指針。
前提#3
等級や手帳は制度確認として扱う
身体障害者手帳の等級は、制度確認では重要ですが、業務適性を直接示すものではありません。人事は情報共有、連絡手段、会議参加を確認します。
2026年5月時点の民間企業の法定雇用率は2.5%で、2026年7月から2.7%への引上げが予定されています。
出典:厚生労働省「障害者雇用対策」、厚生労働省「身体障害者障害程度等級表」。
採用前に決める情報共有の設計
採用前は、求人票と面接案内に「どの情報をどの形式で渡せるか」を書ける状態にします。
以下では、求人票、募集導線、職場見学の順に、採用前に整える項目を整理します。
採用前#1
求人票に音声依存の業務を書き出す
求人票では、電話対応、来客対応、朝礼、会議、館内放送など、音声に依存する業務を具体化します。
同時に、チャット、メール、字幕付き会議、電話取次など、代替できる方法も記載します。
「電話応対必須」と書く前に、実際に本人が担当すべき電話か、チームで分担できる電話かを分けます。
採用前#2
応募時に希望する配慮を伝えやすくする
応募フォームや面接案内には、手話通訳、筆談、字幕、資料事前共有などの希望欄を用意します。
選択肢を置くと、応募者が「何を頼めるのか」を考えやすくなります。
ただし、障害名や等級を必須入力にすると、採用判断に使う情報と誤解されやすいため注意が必要です。
採用前#3
職場見学で音声情報の流れを見せる
職場見学では、本人が働く席、会議室、休憩室、非常時の避難導線を確認できるようにします。
朝礼や会議がある職場なら、議事録、チャット、掲示板、字幕ツールの運用も見せます。
見学後に「困りそうな場面」を本人と確認すると、面接前に配慮の論点を整理できます。
面接で確認することと避ける質問
面接では、障害の重さを聞くよりも、業務で必要な情報を受け取る方法を確認します。
本人の同意なく医療情報に踏み込まず、職務遂行と配慮の範囲に質問を限定します。
面接#1
面接当日の情報保障を先に用意する
面接前には、面接官名、所要時間、質問の大枠、当日の連絡方法をテキストで送ります。
対面なら筆談用具や座席配置、オンラインなら字幕表示やチャット併用を確認します。
マスクで口元が見えにくい場合は、透明マスクや筆談への切替など、代替手段を準備します。
面接#2
聞くべき質問は職務と配慮に絞る
質問は、職務要件、情報共有、会議参加、電話対応、緊急連絡の五つに絞ると整理しやすくなります。
- 会議参加:
会議では字幕、筆談、議事録共有のどれが使いやすいですか。 - 電話対応:
電話業務がある場合、対応可能な範囲と代替手段を一緒に確認できますか。 - 緊急連絡:
災害時や急な連絡は、どの方法で受け取れると安全ですか。
質問の目的は、できない理由を探すことではなく、業務を成立させる条件を確認することです。
面接#3
避けたい質問は聞き換える
「等級はいくつですか」「電話は無理ですよね」といった聞き方は、採否への影響を疑われやすくなります。
聞き換えるなら「この業務で必要な連絡方法は、どの形なら対応しやすいですか」とします。
医療情報や家庭状況に踏み込む質問は避け、業務上必要な範囲に限定します。
音声情報を見える化する業務設計
音声情報の見える化は、会話を文字、図、チャット、通知に置き換えて共有する設計です。
以下では、会議、日常連絡、電話業務、緊急連絡に分けて整理します。
見える化#1
会議と朝礼は文字情報を残す
会議や朝礼では、議題、決定事項、担当者、期限をテキストで残します。
自動字幕は便利ですが、固有名詞や専門用語の誤変換があるため、議事録で補います。
重要な会議では、要約筆記や手話通訳を手配する選択肢も検討します。
見える化#2
日常連絡はチャットと掲示に寄せる
日常連絡は、口頭だけで終わらせず、チャット、タスク管理、掲示で確認できる形にします。
「さっき言ったよね」が起きやすい職場では、本人だけでなくチーム全体の情報共有を見直します。
確認済みのリアクションや既読ルールを決めると、伝達漏れを早く見つけられます。
見える化#3
電話業務は役割分担と代替手段を決める
電話業務は、受電、折返し、予約変更、緊急連絡、社内確認に分けます。本人が担当しなくてもよい電話は、チームの取次やメールへ置き換えます。
外部との通話が必要な場合は、電話リレーサービスの仕組みを知っておくと選択肢が広がります。
出典:政府広報オンライン「電話リレーサービス」、総務省「聴覚障害者等の電話利用の円滑化」。
見える化#4
緊急連絡は音以外の経路を用意する
災害時や急病時は、館内放送だけでなく、文字通知、振動、ライト、チャットで伝える経路を用意します。避難時の声かけ担当も決めます。
音声による119番通報が難しい場合に備え、NET119の利用可否を居住地の消防本部で確認してもらいます。
出典:総務省消防庁「NET119緊急通報システム」。利用には事前登録が必要です。
入社前後の配慮を運用に落とす
入社前後は、面接で合意した配慮を、担当者、期限、見直し日まで含めて運用にします。
配慮は一度決めたら終わりではなく、業務変更やツール変更に合わせて見直します。
入社運用#1
配慮内容を本人主体で記録する
内定後は、本人が使いやすい連絡方法、会議参加方法、緊急連絡方法を文書化します。
共有範囲は本人同意を前提にし、直属上司、OJT担当、人事で必要最小限にします。
記録には「何をするか」だけでなく、「誰が準備するか」も入れると運用漏れを防げます。
入社運用#2
受け入れチームに共有する範囲を決める
チーム共有では、障害名の説明よりも、業務上必要な連絡ルールに絞ります。
たとえば「口頭指示だけにしない」「会議後に決定事項をチャットへ残す」といった運用にします。
本人の了承なく、医療情報や手帳情報を周囲へ共有しないことも明確にします。
入社運用#3
支援機器や通訳は早めに手配する
補聴援助機器、手話通訳、要約筆記は、必要性が見えてから手配すると入社日に間に合わないことがあります。
JEEDには、手話通訳・要約筆記等担当者や職場介助者に関する助成金メニューがあります。対象、申請時期、支給要件は窓口で確認します。
入社運用#4
定着面談で情報共有のズレを点検する
入社初期の面談では、業務量より先に、情報共有の抜けや会議参加のしにくさを確認します。
「聞こえなかったら言ってください」だけではなく、聞こえなかったことに気づける仕組みを作ります。
週次の短い面談で、字幕、議事録、チャット運用、電話代替の実効性を見直します。
合理的配慮の具体例
合理的配慮は、本人の希望と職務要件を照らし合わせて、過重な負担にならない範囲で決めます。
以下は採用・配置時に検討しやすい例です。個別事情に合わせて調整します。
| 場面 | 配慮例 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 面接 | 質問項目の事前共有、筆談、字幕、手話通訳 | 採否ではなく職務遂行条件の確認に使う |
| 会議 | 議題事前共有、自動字幕、要約筆記、議事録 | 決定事項と担当者を文字で残す |
| 電話 | メール化、チャット化、取次、電話リレーサービス | 本人担当とチーム対応を分ける |
| 緊急時 | 文字通知、振動、ライト、避難時の声かけ担当 | 本人同意と訓練で実効性を確認する |
具体例#1
会議が多い管理部門での配慮
管理部門では、定例会議の議題、決定事項、期限を事前・事後にテキストで共有します。
発言はチャットでも受け付け、本人だけが情報を取りに行く構造にしないことが重要です。
具体例#2
電話が一部ある事務職での配慮
事務職で電話がある場合、受電の一次対応、社内確認、顧客連絡を分けます。
本人が担当しない電話はチームで分担し、本人の担当業務はメールやチャットで完結できるようにします。
具体例#3
現場作業がある職場での配慮
現場作業では、口頭の危険指示を文字、合図、ライト、チェックリストに置き換えます。
始業前点検や避難訓練で、音声以外の伝達が実際に届くかを確認します。
聴覚障害のある方の採用でよくある質問
ここでは、人事担当者からよく出る質問を、採用実務の観点で整理します。
FAQ#1
面接で聴覚障害の等級を聞いてもよいですか
等級そのものを採否判断に使う聞き方は避け、職務遂行に必要な配慮を確認します。
雇用率算定など制度上の確認は、内定後の手続きや本人同意のある範囲で整理します。
FAQ#2
手話通訳や要約筆記の費用は会社負担ですか
業務に必要な情報保障であれば、企業側の配慮として検討する場面があります。
JEEDの助成金対象になる可能性もあるため、入社日から逆算して早めに相談します。
FAQ#3
電話対応がある職種では採用が難しいですか
電話があるだけで難しいとは限りません。まず電話業務の頻度、内容、緊急度を分けます。
メール、チャット、取次、電話リレーサービスなどで代替できる業務は、職務設計を見直します。
FAQ#4
入社後に配慮が変わった場合はどうしますか
業務変更、ツール変更、体調変化、チーム異動に合わせて、本人と配慮内容を見直します。
変更点は文書に残し、共有範囲も本人同意を取り直すと運用トラブルを防ぎやすくなります。
まとめ
聴覚障害のある方の採用では、聴こえ方の説明よりも、業務上の音声情報をどう扱うかが実務の中心です。
求人票、面接、会議、電話、緊急連絡を点検し、本人と合意した方法をチーム運用に落とします。
一律の配慮メニューを当てはめず、職務要件、本人の希望、事業所の実施可能性を並べて検討します。
自社で受け入れ体制を整える支援が必要な場合は、採用相談ページからご相談ください。
