キャリア自己効力感とは、進路選択や職業上の行動を自分にも実行できると見積もる感覚のことです。
単に「自信がある性格」という意味ではありません。求人を調べる、相談する、応募書類を整える、新しい仕事を学ぶなど、キャリアに関わる具体的な行動について「やれば進められそうだ」と感じられるかに注目します。
この記事では、キャリア自己効力感の意味、仕組み、具体例、関連概念、日常での育て方を整理します。
本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
キャリア自己効力感とは
キャリア自己効力感とは、進路や仕事に関する課題を自分がうまく実行できるという見通しです。自己効力感とは、ある結果に必要な行動を自分で組み立て、実行できるという信念を指します。
キャリアの文脈では、学部や専攻を選ぶ、職業情報を集める、転職活動を進める、職場で新しい役割に挑戦するなどの場面に関係します。能力そのものよりも、「その行動に取り組めそうだ」と感じられるかを見る概念です。
たとえば、同じスキルを持つ人でも、応募書類を出せると思える人と、どうせ無理だと感じて動けない人では行動が変わります。キャリア自己効力感は、この行動の起点になる見通しを説明する時に使われます。
- キャリア自己効力感は、進路や仕事に関する行動を実行できるという見通し
- 性格としての自信ではなく、場面ごとの課題に対する感覚として考える
- 情報収集、選択、計画、相談、応募、学習などの行動に影響する
出典: Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. https://www.worldcat.org/title/36074515 / Lent, R. W., Brown, S. D., & Hackett, G. (1994). https://doi.org/10.1006/jvbe.1994.1027
キャリア自己効力感の仕組み
キャリア自己効力感は、社会認知的キャリア理論の中で重要な要素として扱われます。社会認知的キャリア理論とは、自己効力感、結果期待、目標が、興味や進路選択、職業上の行動に関わると考える理論です。
この仕組みを日常的に言い換えると、「自分にもできそうだ」「やれば何か得られそうだ」「だからこの行動を目標にしよう」という流れです。どれか一つだけで決まるのではなく、互いに影響しながら行動につながります。
要素#1
自己効力感
自己効力感は、「自分にもこの行動を実行できそうだ」という見通しです。キャリア場面では、求人を探す、面接で説明する、資格学習を続ける、上司に相談するなど、具体的な行動ごとに変わります。
そのため、ある人が仕事全般に自信を持っていても、初めての転職活動には不安を感じることがあります。反対に、仕事には迷いがあっても、情報収集なら進められると感じる場合もあります。
要素#2
結果期待
結果期待とは、「その行動をすると、どんな結果につながりそうか」という予測です。応募しても何も変わらないと思えば行動は起きにくく、相談すれば選択肢が整理できそうだと思えば動きやすくなります。
キャリア自己効力感があっても、行動の結果に意味を感じられなければ続きにくくなります。自己効力感と結果期待は、別のものとして分けて考えると理解しやすくなります。
要素#3
目標
目標とは、実際に取り組む行動の方向づけです。「今月は3社の求人を比較する」「大学のキャリアセンターで相談する」「職務経歴書を一度作る」のように、次の行動を具体化します。
自己効力感が高まると、目標を立てやすくなります。小さな目標を実行できると、次の自己効力感にもつながります。
出典: Lent, R. W., Brown, S. D., & Hackett, G. (1994). “Toward a Unifying Social Cognitive Theory of Career and Academic Interest, Choice, and Performance.” Journal of Vocational Behavior, 45(1), 79-122. https://doi.org/10.1006/jvbe.1994.1027
キャリア自己効力感の具体例
キャリア自己効力感は、進路や仕事の大きな決断だけでなく、日々の小さな行動にも現れます。
具体例#1
学生が進路を選ぶ
大学生が、どの業界を受けるか迷っている場面です。興味はあるものの、情報が多すぎて何から始めればよいかわからないことがあります。
このときキャリア自己効力感が働くと、「まず3つの業界を調べる」「卒業生の話を聞く」「キャリアセンターで相談する」など、実行できる行動に分けられます。進路を一度で決める力ではなく、決めるための行動を進める見通しです。
具体例#2
転職活動を始める
現職に違和感があり、転職を考えている人がいるとします。ただし、職務経歴書の書き方や面接への不安が強いと、求人を見るだけで止まってしまうことがあります。
キャリア自己効力感の視点では、「職務経歴を棚卸しする」「1社だけ応募書類を作る」「信頼できる人に見てもらう」といった小さな行動が重要です。成功を保証する感覚ではなく、準備行動を始められる感覚として理解できます。
具体例#3
社内で新しい役割に挑戦する
部署内で新しいプロジェクトの担当者を募集している場面です。経験が少ないため、手を挙げるか迷うことがあります。
この場合、キャリア自己効力感は「全部を完璧にできる」という確信ではありません。「わからない点を調べられる」「経験者に相談できる」「最初の担当範囲なら進められる」と見積もれることが、挑戦の入口になります。
キャリア自己効力感の関連概念
キャリア自己効力感は、自己効力感の考え方をキャリア場面に当てはめた概念です。近い用語と比べると、何に注目しているかが整理しやすくなります。
- 自己効力感:特定の行動を実行できるという信念です。キャリア自己効力感は、その対象を進路選択や職業上の行動に絞って見ます。
- キャリア意思決定自己効力感:進路決定に必要な自己評価、情報収集、目標選択、計画、問題解決などを行えるという感覚です。キャリア自己効力感の中でも、意思決定場面に焦点を当てた概念として理解できます。
- 社会認知的キャリア理論:自己効力感、結果期待、目標が、興味や選択、遂行に関わると考える理論です。キャリア自己効力感は、この理論を理解する中心概念の一つです。
- キャリア・アダプタビリティ:変化に対応するための心理社会的な資源です。キャリア自己効力感が「実行できそうだ」という見通しに注目するのに対し、アダプタビリティは関心、統制、好奇心、自信などの資源を広く扱います。
- キャリア構築理論:経験を意味づけながらキャリアを作ると考える理論です。自己効力感は、意味づけた選択を行動に移す時の見通しとして関係します。
出典: Taylor, K. M., & Betz, N. E. (1983). https://doi.org/10.1016/0001-8791(83)90006-4 / Ohio State University, Career Decision Self-Efficacy Scale. https://u.osu.edu/cdse/
キャリア自己効力感を育てる方法
キャリア自己効力感は、気合いで高めるものではありません。できる行動を小さく分け、経験を積み、支援を使いながら育てていく方が実用的です。
- 行動を小さく分ける:
「転職する」ではなく、「求人を5件見る」「職務経歴を1ページに書く」のように、今日できる単位にします。 - できた経験を記録する:
応募や内定だけでなく、調べた、相談した、文章を直したなどの行動も記録します。小さな成功経験が次の行動の見通しになります。 - 近い立場の例を見る:
同じ職種、同じ年代、似た制約を持つ人の進め方を見ると、自分にもできそうだと感じやすくなります。 - 言葉で支援を受ける:
一人で判断しきれない時は、キャリアセンター、上司、同僚、専門家などに相談し、次の行動を具体化します。 - 不安の状態も材料にする:
緊張や不安があるから無理だと決めつけず、何が不安なのかを分けます。情報不足、経験不足、準備不足が見えれば、次の行動を決めやすくなります。
キャリア自己効力感は、何でも一人でできると思い込むための概念ではありません。自分にできる行動、支援を借りる行動、まだ準備が必要な行動を分け、次の一歩を現実的に決めるための考え方です。
本記事はキャリア理論の一般的な解説です。個別の進路・転職判断は、状況や制約を踏まえて検討してください。