本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
内集団ひいきとは
内集団ひいき(in-group favoritism / in-group bias)とは、自分が属する集団(内集団)のメンバーを、属していない集団(外集団)のメンバーより優遇・好意的に評価する心理的傾向のことです。
Henri Tajfel(アンリ・タジフェル)と John Turner が1979年の論文で示した「社会的アイデンティティ理論」が、その背景説明として広く参照されています。
所属集団を肯定的に評価することが自己評価の維持につながるため、内集団ひいきは無意識的にも働きます。なお、より広い「intergroup bias(集団間バイアス)」は外集団への否定的な評価まで含む上位概念として扱われます。
- タジフェルらの「最小条件集団実験」では、絵画の好みなど些細で意味の薄い分類でも、内集団のメンバーにより多く配分する傾向が示された
- 内集団ひいきは採用・評価・資源配分などの意思決定に、本人が気づかない形で影響しうる
- 集団のアイデンティティへの脅威が高まるほど、内集団ひいきと外集団への偏見が強化される
内集団ひいきのメカニズム
内集団ひいきは「社会的アイデンティティ」の維持から生まれます。人はどの集団に属するかによって自己概念を形成しており、「自分のいる集団がよい」と感じることが自己評価を保つ手段になります。
そのため内集団のメンバーは有能・誠実・友好的に見えやすく、外集団のメンバーは互いに似た存在として見られやすくなります(外集団均質性効果)。集団間の競争や脅威が強い場面では、外集団を低く評価する方向に進むこともあります。
内集団ひいきと似た概念との違い
内集団ひいきと混同されやすい概念との違いを整理します。
- スケープゴーティングとの違い:
スケープゴーティングは「不満のはけ口として外集団を攻撃する」現象。内集団ひいきは内集団を優遇することが主体であり、外集団への積極的攻撃を必ずしも伴いません。 - 同調効果との違い:
同調効果は「集団の多数派に合わせる」現象。内集団ひいきは「自分の集団を有利に評価する」という評価バイアスであり、行動の同調とは異なります。
内集団ひいきの具体例
ここでは内集団ひいきが日常のどんな場面で働くかを説明します。
具体例#1
採用面接での同じ大学出身者への優遇
面接官が無意識のうちに、自分と同じ大学・地域・業種出身の候補者に対して「共感できる」「信頼できそう」と感じ、高い評価をつけてしまうケースです。客観的な選考基準があっても、内集団ひいきが最終判断に影響します。
具体例#2
スポーツ観戦での判定評価
サッカーや野球の試合で、同じ反則行為でも「自チームの反則は偶然・相手チームの反則は故意」と感じる傾向があります。
古典的な研究(Hastorf & Cantril, 1954)では、同じアメリカンフットボールの試合映像を見せて反則を判定させたところ、応援する大学によって反則の見え方が大きく異なることが示されました。
具体例#3
組織間の予算配分交渉
部署間で予算を分配する際、自部署のプロジェクトを「重要性が高い」「効果が見込める」と評価し、他部署のプロジェクトには厳しい目を向ける傾向があります。これは内集団ひいきが組織内の意思決定に影響する典型例です。
関連する概念
- 社会的比較理論
他者と自分を比較して自己評価を形成する心理。内集団ひいきは自集団を高く比較することで自己評価を維持するプロセスとして理解できる。 - 集団思考
集団の凝集性が批判的思考を阻害する現象。内集団ひいきが強い集団では、集団思考が生まれやすい土壌が整いやすい。 - 同調効果
周囲の意見に合わせようとする心理。内集団ひいきによって形成された集団内の評価基準への同調が、評価の偏りを強化する。
内集団ひいきを知って活かす・対策する方法
- 採用・評価などの意思決定では評価基準を事前に明文化し、属性・出身などの無関係情報が判断に入り込まないブラインド評価を導入する
- 多様な集団メンバーが協力して共通目標を達成する「接触仮説」的な環境をつくり、外集団への親近感を高めやすくする
- 「私は内集団ひいきをしていないか」という問いを意思決定の場に意識的に持ち込み、認知バイアスへの自覚を習慣化する