クランボルツの社会的学習理論とは、キャリア選択を、生まれつきの適性だけでなく、経験・環境・観察学習・信念から学び取るものとして捉えるキャリア理論です。
「自分に合う仕事を一度で見つける」よりも、働く中で得た経験や偶然の出会いを通じて、選択肢を広げていく点に特徴があります。
本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
クランボルツの社会的学習理論とは
クランボルツの社会的学習理論とは、キャリア上の選択が、個人の特性と学習経験、周囲の環境、本人の解釈によって形作られると考える理論です。
提唱者は、スタンフォード大学で教育学・心理学に携わったジョン・D・クランボルツです。英語では Social Learning Theory of Career Decision Making と呼ばれます。
この理論でいう学習は、学校の勉強だけを指しません。仕事でほめられた経験、身近な人の働き方を見た経験、応募して断られた経験なども、キャリア選択に影響する学習として扱います。
- キャリア選択は、適性だけでなく経験から学ばれる
- 人は周囲の環境や他者の行動を見て、仕事への見方を作る
- 偶然の出来事も、行動によって学習機会に変えられる
出典: Krumboltz, Mitchell, and Jones (1976), Krumboltz (1979), Stanford Graduate School of Education(2026年5月26日確認)
クランボルツの社会的学習理論の仕組み
クランボルツの社会的学習理論は、キャリア選択を複数の要因が重なって生まれるものとして説明します。
ここでは、キャリア意思決定に影響する主な要素を3つに分けて整理します。
要素#1
個人の特性と環境条件
個人の特性とは、能力、興味、体力、性格傾向など、本人が持っている特徴です。環境条件とは、家庭、地域、景気、学校、職場、求人状況など、本人だけでは選びにくい外部条件を指します。
たとえば、地方に住んでいる人が近くにある産業を見て進路を考えることがあります。これは「好き嫌い」だけではなく、環境から見える選択肢がキャリアに影響する例です。
要素#2
学習経験
学習経験には、直接経験と観察学習があります。直接経験は、自分でやってみた結果から学ぶことです。観察学習は、他者の行動や結果を見て学ぶことを指します。
たとえば、アルバイトで接客を経験して人と話す仕事に関心を持つ場合があります。一方で、家族や先輩の働き方を見て「この働き方は自分にも合いそうだ」と考える場合もあります。
要素#3
仕事への信念と行動
学習経験は、仕事に対する信念を作ります。信念とは、「自分は営業に向いていない」「未経験分野には挑戦できない」といった、自分や仕事についての思い込みを含む考え方です。
信念は行動に影響します。「どうせ無理」と考えれば応募を避けやすくなります。反対に、小さな成功経験があれば、次の行動を試しやすくなります。
クランボルツの社会的学習理論の具体例
クランボルツの社会的学習理論は、進路や転職で迷う場面を「適性の有無」だけで判断しないために使えます。
具体例#1
アルバイト経験から職業興味が変わる場面
大学生が事務職志望だったものの、飲食店のアルバイトで新人教育を任され、人を育てる仕事に関心を持つことがあります。
この場合、キャリア選択は最初から決まっていた適性だけで動いたわけではありません。実際の経験から「人に教えるとやりがいを感じる」と学び、選択肢が広がったと考えられます。
具体例#2
先輩の働き方を見て選択肢が増える場面
同じ部署の先輩が、営業経験を活かしてカスタマーサクセス職へ移る姿を見たとします。それまで転職は「まったく別の仕事に移ること」だと思っていた人でも、経験を横に展開する道に気づくことがあります。
これは観察学習の例です。他者の行動を見て、自分の中に新しい選択肢や期待が生まれています。
具体例#3
不採用経験から行動を変える場面
未経験職種へ応募して不採用になった人が、「自分には無理だ」と考えることがあります。しかし、面接で不足を指摘されたスキルを学び、次の応募で別の職種に挑戦する場合もあります。
社会的学習理論では、不採用も単なる失敗ではなく、次の行動を変える情報になります。経験をどう解釈するかで、キャリアの選択肢は狭くも広くもなります。
クランボルツの社会的学習理論の関連概念
クランボルツの社会的学習理論は、計画的偶発性理論だけでなく、キャリア支援で使われる複数の概念と関係しています。
- 計画的偶発性理論: 偶然の出来事をキャリア上の学習機会として活かす考え方です。社会的学習理論を背景に、予期しない出来事への行動を重視します。
- 観察学習: 他者の行動や結果を見て学ぶことです。身近な人の働き方を見て職業イメージが変わる場面に関係します。
- 自己効力感: 「自分にもできそうだ」と感じる見通しです。小さな成功経験が増えると、新しい仕事や学習に挑戦しやすくなります。
- キャリア信念: 仕事や自分の可能性についての思い込みです。クランボルツは、キャリア上の信念が意思決定を左右する点にも注目しました。
出典: Mitchell, Levin, and Krumboltz (1999), Stanford Graduate School of Education(2026年5月26日確認)
クランボルツの社会的学習理論を活かす方法
クランボルツの社会的学習理論を活かすには、適職名を探す前に、経験から何を学んだかを整理することが大切です。
- 経験を書き出す:
成功、失敗、偶然の出会い、断られた経験を分けずに書き出します。 - 学んだことを言語化する:
「何が得意か」だけでなく、「何を見て考えが変わったか」を確認します。 - 思い込みを点検する:
「未経験だから無理」「文系だから技術職は無理」など、行動を止めている信念を探します。 - 小さな行動を試す:
情報収集、短期講座、社内相談、副業の試行など、学習経験を増やせる行動に分けます。
クランボルツの社会的学習理論は、キャリアを「最初に正解を当てるもの」とは見ません。むしろ、行動して学び、学んだことを次の選択に反映するための理論です。
計画的偶発性理論も、偶然を待つだけの考え方ではありません。予期しない出来事に出会えるように行動し、それを学習機会として使う姿勢が重視されます。
本記事はキャリア理論の一般的な解説です。個別の進路・転職判断は、状況や制約を踏まえて検討してください。