クランボルツの社会的学習理論とは、仕事選びは適性だけで決まるのではなく、経験・環境・人から見聞きしたこと・思い込みを通じて形づくられると考えるキャリア理論です。
たとえば、アルバイトで人に教える楽しさに気づいたり、先輩の異動を見て新しい職種を知ったりする場面があります。そうした日々の学びが、進路や転職の選択肢を広げる手がかりになります。
キャリア事業を営むセオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献を確認したうえで作成しています。医学的診断を代替するものではありません。
クランボルツの社会的学習理論とは
クランボルツの社会的学習理論は、キャリア上の選択を「本人の内側にある適性」だけでなく、周囲の条件や学習経験との相互作用で捉える理論です。
提唱者は、スタンフォード大学で教育学・心理学に携わったジョン・D・クランボルツです。英語では Social Learning Theory of Career Decision Making と呼ばれます。
ここでいう学習は、学校の勉強に限りません。仕事でほめられた経験、応募して断られた経験、身近な人の働き方を見た経験も、キャリア選択に影響する学習として扱います。
- キャリア選択は、適性診断だけで一度に決まるものではない
- 経験や観察から、仕事への興味や苦手意識が作られる
- 失敗や偶然の出会いも、次の行動を変える材料になる
出典:ERIC EJ146019/Mitchellほか編『Social Learning and Career Decision Making』(1979)/Stanford GSE (2019)(2026年7月20日確認)
クランボルツの社会的学習理論の仕組み
この理論では、キャリア選択は複数の要因が重なって生まれるものとして説明されます。重要なのは、本人だけに原因を置かず、環境と経験もあわせて見る点です。
- 本人の特性
能力、興味、体力、性格傾向など、本人が持つ特徴 - 環境条件
家庭、地域、学校、景気、求人状況など、本人だけでは選びにくい外部条件 - 学習経験
やってみた結果から学ぶ直接経験と、他者の行動を見て学ぶ観察学習 - 課題への取り組み方
情報収集、相談、練習、応募など、選択肢を広げるための行動
経験を重ねると、人は「自分は営業に向いていない」「未経験分野にも挑戦できそうだ」といった仕事への信念を作ります。信念は次の行動に影響します。
クランボルツの社会的学習理論の具体例
進路や転職で迷う場面では、「向いているかどうか」だけで判断すると選択肢が狭くなります。経験から何を学んだかを見ると、別の可能性に気づきやすくなります。
具体例#1
アルバイトで職業興味が変わる
大学生が事務職を志望していたものの、飲食店のアルバイトで新人教育を任され、人を育てる仕事に関心を持つことがあります。
この場合、最初から適性が決まっていたというより、実際の経験から「教えるとやりがいを感じる」と学んだと考えられます。経験が職業興味を更新した例です。
具体例#2
先輩の働き方を見て選択肢が増える
同じ部署の先輩が、営業経験を活かしてカスタマーサクセス職へ移る姿を見たとします。それまで転職を「別業種へ移ること」だけだと思っていた人でも、経験を横に展開する道に気づく場合があります。
これは観察学習の例です。他者の行動と結果を見ることで、自分の中に新しい期待や選択肢が生まれます。
具体例#3
不採用経験から次の行動を変える
未経験職種へ応募して不採用になった人が、「自分には無理だ」と考えることがあります。一方で、面接で不足を指摘されたスキルを学び、次の応募先を選び直す場合もあります。
社会的学習理論では、不採用は単なる失敗ではなく、次の行動を変える情報にもなります。経験の解釈しだいで、選択肢は狭くも広くもなります。
クランボルツの社会的学習理論の関連概念
クランボルツの社会的学習理論は、キャリア支援で使われる複数の概念と関係しています。特に、偶然の活かし方や自己効力感とあわせて読むと理解しやすくなります。
- 計画的偶発性理論
偶然の出来事をキャリア上の学習機会として活かす考え方です。社会的学習理論を背景に、予期しない出来事への行動を重視します。 - 観察学習
他者の行動や結果を見て学ぶことです。身近な人の働き方を見て職業イメージが変わる場面に関係します。 - 自己効力感
「自分にもできそうだ」と感じる見通しです。小さな成功経験や代理体験が、次の挑戦を支える場合があります。 - キャリア信念
仕事や自分の可能性についての思い込みです。クランボルツは、キャリア上の信念が意思決定に影響する点にも注目しました。
出典:Mitchell, Levin & Krumboltz (1999), ERIC EJ596777(2026年7月20日確認)
クランボルツの社会的学習理論を活かす方法
この理論を活かすには、適職名を一つに絞る前に、経験から何を学んだかを整理し、次の小さな行動につなげることが大切です。
- 経験を書き出す:
成功、失敗、偶然の出会い、断られた経験を分けずに並べてください。 - 学んだことを言語化する:
「何が得意か」だけでなく、「何を見て考えが変わったか」を確認してください。 - 思い込みを点検する:
「未経験だから無理」など、行動を止めている信念を探してください。 - 小さく試す:
情報収集、短期講座、社内相談、副業の試行など、学習経験を増やせる行動に分けてください。
クランボルツの社会的学習理論は、キャリアを「最初に正解を当てるもの」とは見ません。行動して学び、学んだことを次の選択に反映するための理論です。
ただし、経験から学べば必ず望む仕事に就けるという意味ではありません。求人状況、生活条件、健康状態、支援の有無なども含めて判断する必要があります。
