ライフキャリア・レインボーとは、人生の各時期に担う複数の役割を、虹のように重なり合うものとして捉えるキャリア理論のモデルです。
キャリアを「仕事だけ」と考えるのではなく、学生、働く人、家庭の役割、市民、余暇を楽しむ人などの役割が、時間の中で強まったり弱まったりすると考える点に特徴があります。
本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
ライフキャリア・レインボーとは
ライフキャリア・レインボーとは、ドナルド・E・スーパーのライフスパン・ライフスペース理論を視覚的に表したモデルです。人生の時間軸を「ライフスパン」、家庭・学校・職場・地域などの生活空間を「ライフスペース」として捉えます。
スーパーは1980年の論文で、キャリアを生涯の中で演じる役割の組み合わせと順序として説明しました。ここでいうキャリアは職業経歴だけでなく、学ぶ、働く、家庭を担う、地域に関わる、余暇を持つといった役割全体を含みます。
そのため、ライフキャリア・レインボーは「どの仕事を選ぶか」だけを見る図ではありません。いまの自分がどの役割に時間や気持ちを使っているのか、これからどの役割が増減しそうかを整理するための考え方です。
- キャリアを仕事だけでなく、複数の生活役割の重なりとして捉える
- 役割は年齢とともに増減し、同時に重なることもある
- 役割同士の衝突や優先順位を考える時に使いやすい
出典:Super, D. E. (1980). “A life-span, life-space approach to career development.” Journal of Vocational Behavior, 16(3), 282-298. https://doi.org/10.1016/0001-8791(80)90056-1
ライフキャリア・レインボーの仕組み
ライフキャリア・レインボーは、発達段階、生活役割、役割の重なりという3つの視点で理解すると整理しやすくなります。
仕組み#1
人生の発達段階
スーパーのキャリア発達理論では、成長、探索、確立、維持、下降という発達段階が示されます。これは、年齢だけで機械的に区切るものではなく、経験や転機によって同じ課題を繰り返すこともあります。
たとえば中年期に新しい職種へ移る人は、年齢としては維持期に近くても、新しい分野を探索する課題に向き合うことがあります。
仕組み#2
複数の生活役割
ライフキャリア・レインボーでは、子ども、学生、余暇を楽しむ人、市民、働く人、配偶者、家庭を担う人、親、退職者などの役割が扱われます。どの役割を持つか、どの役割が中心になるかは人によって異なります。
重要なのは、働く人としての役割だけをキャリアと見なさないことです。学び直し、家族のケア、地域活動、余暇も、その人の自己概念や選択に影響します。
仕組み#3
役割の重なりと衝突
複数の役割は同時に存在します。学生でありながらアルバイトをする、働きながら親の役割を担う、退職後に地域活動へ関わるなど、役割は重なり合います。
一方で、役割が増えると時間や気持ちの配分に葛藤が生じます。仕事を増やすと家庭や学習の時間が減る、家庭の事情で仕事の役割を調整する、といった判断が必要になります。
出典:Super, D. E. (1980). “A life-span, life-space approach to career development.” / Careers New Zealand, “Donald Super Developmental self-concept.” https://www.careers.govt.nz/assets/pages/docs/career-theory-model-super.pdf
ライフキャリア・レインボーの具体例
ライフキャリア・レインボーは、仕事と生活を分けて考えにくい場面で役立ちます。
具体例#1
大学生が学業とアルバイトを両立する
大学生が授業を受けながら、アルバイトやインターンにも取り組む場面です。この人は学生の役割だけでなく、働く人としての役割も少しずつ担っています。
この視点で見ると、アルバイトは単なる収入源ではありません。社会との接点を持ち、自分に合う働き方や苦手な環境を知る経験として、将来の職業選択に影響します。
具体例#2
育児期に働き方を調整する
子育てが始まり、以前と同じ時間帯や働き方を続けにくくなる場面です。働く人としての役割と、親や家庭を担う役割が同時に強くなります。
ライフキャリア・レインボーの視点では、これはキャリアの中断だけではありません。どの役割にどれだけ時間を配分し、どの働き方なら複数の役割を保てるかを考える転機です。
具体例#3
定年後に地域活動や学び直しを始める
定年後、仕事中心の生活から、地域活動、趣味、学び直し、家族との時間へ役割が移る場面です。働く人としての役割が弱まり、余暇を楽しむ人や市民としての役割が強くなることがあります。
この変化を「仕事が終わった後」とだけ見ると、キャリアの意味が狭くなります。複数の役割の組み合わせが変わる時期として見ると、次の生活設計を考えやすくなります。
ライフキャリア・レインボーの関連概念
ライフキャリア・レインボーは、スーパーの発達理論を理解する入口になる概念です。近い考え方と合わせて整理すると、使いどころが見えやすくなります。
- スーパーのキャリア発達理論:生涯を通じて自己概念が発達し、職業選択や働き方に影響すると考える理論です。ライフキャリア・レインボーは、この理論の中で生活役割の重なりを表すモデルです。
- キャリア・アダプタビリティ:転機や変化に対応するための心理社会的資源です。役割の変化が起きた時に、次の選択肢を探り行動する力として関係します。
- ロール・サリエンス:複数の生活役割の中で、どの役割が本人にとって重要かを表す考え方です。ライフキャリア・レインボーが役割の全体像を示すのに対し、ロール・サリエンスは役割ごとの重要度に注目します。
- ワークライフバランス:仕事と生活の調和を考える実務的な言葉です。ライフキャリア・レインボーは、仕事と生活を二分するよりも、複数の役割が変化する構造として捉えます。
出典:Nevill, D. D., & Calvert, P. D. (1996). “Career Assessment and the Salience Inventory.” Journal of Career Assessment, 4(4), 383-397. https://doi.org/10.1177/106907279600400404
ライフキャリア・レインボーを活かす方法
ライフキャリア・レインボーを活かすには、理想の職業だけを考えるより、いま担っている役割とこれから増えそうな役割を見える化することが有効です。
- いまの役割を書き出す:
働く人、学生、親、家庭を担う人、市民、余暇を楽しむ人など、現在の自分にある役割を並べます。 - 時間と気持ちの配分を見る:
どの役割に時間を使っているか、どの役割を大事にしたいかを分けて考えます。 - 役割同士の衝突を言葉にする:
仕事を増やすと学習時間が減る、家庭の役割が強くなり転職準備が止まるなど、葛藤の形を具体化します。 - 次の数年で変わる役割を予測する:
進学、就職、異動、育児、介護、退職など、生活役割が変わる可能性を早めに見ておきます。
ライフキャリア・レインボーは、仕事を軽く扱うための考え方ではありません。仕事を人生の中の一つの重要な役割として位置づけ、他の役割との関係まで含めてキャリアを考えるためのモデルです。
本記事はキャリア理論の一般的な解説です。個別の進路・転職判断は、家庭状況・健康状態・経済状況などを踏まえて検討してください。