本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
返報性の原理とは
返報性の原理とは、相手が何かをしてくれたり譲歩してくれたりした際に生じる、お返しをしたい(しなければならない)と感じる心理的な傾向のことです。
たとえば、友人に誕生日プレゼントをもらったとき、「自分も何かお返しをしなければ」と感じた経験があるのではないでしょうか。これが返報性の原理の典型的な例です。
この原理は、人類が社会生活を営むなかで生まれた互恵的な規範とされており、ほぼすべての文化圏に共通する心理的傾向として、社会心理学や行動経済学の分野で広く研究されています。
- 好意や恩を受けると「お返ししなければ」と感じる心理が、半ば自動的に働く
- 「好意・譲歩・自己開示・規範」の4種類に分類できる
- 営業・交渉・人間関係づくりで広く活用される一方、使い方を誤ると逆効果になる
本記事では、返報性の原理を4つの分類に分けて、それぞれの代表的な実験・具体例・活用ポイントをわかりやすく解説します。営業やマーケティングでの応用方法、注意すべき落とし穴まで一通り押さえられる構成です。
返報性の原理の分類
返報性の原理は「好意・譲歩・自己開示・規範」の4種類に分類されています。
- 好意の返報性
- 譲歩の返報性
- 自己開示の返報性
- 返報性の規範
返報性の原理#1
好意の返報性とは
他者から好意やプレゼントを受け取った際に、お礼やお返しをしたくなる心理現象です。営業・マーケティングの「無料サンプル」や「試食」が代表例で、実証実験ではサクラからコーラをもらった条件で宝くじ購入数が大きく増えました。
返報性の原理#2
譲歩の返報性とは
相手が譲歩してくれた際に、自分も譲歩しなければと感じる心理現象です。先に大きな要求を出して断らせ、その後に本命の小さな要求を提示すると承諾されやすくなる「ドア・イン・ザ・フェイス」の基礎理論として知られています。
返報性の原理#3
自己開示の返報性とは
相手がプライベートな話を開示してくれた場合、自分も同じように打ち明けたくなる心理現象です。「親密度の均衡を保ちたい」という無意識の欲求から生じるとされ、カウンセリングや営業の信頼関係構築でよく活用されます。
返報性の原理#4
返報性の規範とは
受けた恩は必ず返さなければならないと感じる心理傾向で、恩返しだけでなく仕返し(敵意の返報性)も含むのが特徴です。SNSの足跡機能やプレゼント文化の背景にも、この規範意識が働いています。
好意の返報性とは|実証実験や事例・活用方法

好意の返報性とは、他者から何らかの施しなど『好意』を受けとった際に、お礼やお返しをしたくなる心理現象のことです。
そのため、ちょっとした相手への気遣い心遣いや投資によって、自分が意図した成果やお返しを得やすくするテクニックとして、マーケティング・営業の現場でよく活用されています。
好意の返報性#1
「好意の返報性」の実験
好意の返報性の代表的な実験として、アメリカの社会心理学者デニス・リーガン(Dennis T. Regan)が1971年に行った実験があります。
実験では参加者を、(1) サクラ本人から飲み物(コーラ)を受け取る条件、(2) 実験者から飲み物を受け取る条件、(3) 何も受け取らない条件、の3つに分けました。
その後、サクラが「宝くじを買ってほしい」と依頼したところ、サクラ本人から飲み物を受け取ったグループは、他の2条件よりも明確に多くの宝くじを購入したという結果が得られました。
- サクラから飲み物を受け取った条件:約1.73枚
- 実験者から飲み物を受け取った条件:約1.08枚
- 何も受け取らなかった条件:約0.92枚
好意の返報性#2
「好意の返報性」が活用されている事例
好意の返報性は、ビジネスシーンで非常に広く活用されています。特に営業・マーケティングの場面でよく見かけるものです。
- 試食・試飲サービス(食べてもらうことで購買を促す)
- 無料サンプル・お試し提供(プレゼントした後に購入を勧める)
- ハウスメーカーの無料相談・来場プレゼント
- 保険外交員が手土産を持参する
好意の返報性#3
「好意の返報性」は好意を感じるほど強くなる
好意の返報性は、相手から「本当に気にかけてくれている」と感じるほど強く働きます。
マーケティング目的の試食や試供品でも、担当者の対応が丁寧でパーソナルな配慮があれば、「義務としてのお返し」ではなく「感謝からのお返し」が生まれやすくなります。
好意の返報性#4
「好意の返報性」で注意すべきポイント
好意の返報性を活用する際には、以下の点に注意が必要です。
- 意図を見透かされると逆効果
明らかに「お返しを期待している」と感じさせる行動は、相手に不快感や操作感を与え、信頼を損なう可能性があります - 過剰な好意は重荷になる
プレゼントや親切が大きすぎると、相手は「お返しできない」とプレッシャーを感じ、関係が崩れることもあります
譲歩の返報性とは|実証実験や事例・活用ポイント

譲歩の返報性とは、相手が自分のために何かを我慢したり犠牲にしたりしてくれた際に、自分も何かを譲歩しなければならないという感覚が生まれる心理現象のことです。
この原理を使ったテクニックに「ドア・イン・ザ・フェイス」があります。まず大きな要求をして断らせ、その後に本命の小さな要求に移行すると承諾されやすくなるというものです。
譲歩の返報性#1
「譲歩の返報性」の実験
譲歩の返報性の代表的な実験として、ロバート・チャルディーニ(Robert Cialdini)らが1975年に行った実験があります。学生に対して、次の2段階の要求を順に提示しました。
- 大きな要求:少年院でのボランティア(週1回2時間・2年間)
- 小さな要求:少年院の遠足への同行(2時間のみ)
まず大きな要求を出して断らせた後、小さな要求を提示したところ、承諾率は約50%にのぼり、最初から小さな要求だけを提示した条件の約17%と比べておよそ3倍の差が出ました。
譲歩の返報性#2
「譲歩の返報性」が活用されている事例
譲歩の返報性は、営業・交渉・日常のコミュニケーションなど幅広い場面で活用されています。
- 最初に高価格のプランを提示して、その後標準プランに誘導する営業手法
- 交渉時に大きな要求を先に出し、本命の条件を「譲歩した形」で提示する
- 子どもへのお願いで、大きなことを先に頼んでから本命をお願いする
自己開示の返報性とは|実証実験や事例

自己開示の返報性とは、相手が自分のプライベートな話を開示してくれた場合、自分も同じように相手に打ち明けたくなる心理現象のことです。
この心理は、「親密度の均衡を保ちたい」という無意識の欲求から生じるとされており、一方的に話を聞くだけの状態は不均衡を感じさせます。
自己開示の返報性#1
「自己開示の返報性」の実証実験
自己開示の返報性に関しては、アルトマン(I. Altman)とテイラー(D.A. Taylor)による社会浸透理論(Social Penetration Theory)が基盤となっています。(1973年)
互いの自己開示が積み重なるにつれて、関係の「深さ」と「広さ」が増していくという構造を示した理論です。自己開示が返報性として機能することで、信頼関係の構築が促進されます。
自己開示の返報性#2
「自己開示の返報性」が活用されている事例
自己開示の返報性は、カウンセリング・営業・人間関係構築の場面でよく活用されます。
- 営業担当者が自分の失敗談を話すことで、相手の本音を引き出す
- 初対面で少しだけ自分の弱みを見せることで、相手も打ち解けやすくなる
- カウンセリングで「私も似たような経験があります」と伝え、クライアントの開示を促す
返報性の規範とは|事例や注意点

返報性の規範とは、受けた恩は必ず返さなければならないと感じる心理傾向のことです。
これはポジティブな方向(恩返し)だけでなく、受けた仕打ちを返したいという感覚(仕返し・怨恨)も含まれます。
返報性の規範#1
「返報性の規範」の事例:SNS等の足跡機能
SNSの「足跡機能」はまさに返報性の規範が働く場面のひとつです。
「自分のプロフィールを見てくれた人がいる → 自分も見に行かなきゃ」
この「見てくれたら見返す」という行動は、理性的な判断というより、「返さなければ」という規範意識から来る半自動的な反応です。
返報性の規範#2
「返報性の規範」の注意:プレゼントや好意は重くならないようにしよう
返報性の規範は、プレゼントや日常のコミュニケーションでも「重さ」を生むことがあります。
高価なプレゼントをもらった・相手が自分のために多くの時間を使ってくれた、という場合、「こんなに受け取ってしまったら、返せない…」という心理的圧迫が生じることがあります。
- 参考文献:Regan, D. T. (1971). Effects of a favor and liking on compliance. Journal of Experimental Social Psychology, 7(6), 627-639.
- 参考文献:Cialdini, R.B., et al. (1975). Reciprocal Concessions Procedure for Inducing Compliance: The Door-in-the-Face Technique, Journal of Personality and Social Psychology, 31(2), 206-215.
- 『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ)
