本記事は、セオリーズ株式会社の編集部が、心理学・認知科学・行動科学に関する文献や公開情報を確認したうえで作成しています。内容は一般的な知識提供を目的としており、医学的診断・治療を代替するものではありません。
アロンソンの不貞の法則とは
アロンソンの不貞の法則とは、古くから親しい人に褒められるよりも、馴染みのない他人から褒められた方が、心に強く響きやすいとされる心理法則です。自分のことをよく知らない相手に褒められるほど嬉しく感じてしまう、という認知バイアスの一種です。
アメリカの社会心理学者エリオット・アロンソン(Elliot Aronson)が提唱しました。
- 馴染みのない他人からの褒め言葉ほど客観的に受け取られ、嬉しく感じやすい
- 親しい人からの褒め言葉は「身内びいき」と無意識に割り引いてしまう
- 初対面の場でこの法則を意識すると、対人関係で高い効力を発揮する
補足:認知バイアスとは
認知バイアスとは、常識や固定観念、また周囲の意見や情報など、さまざまな要因によって、誤った認識や合理的でない判断を行ってしまう認知心理学の概念です。

アロンソンの不貞の法則のメカニズム
このバイアスの根底にあるのは、System 1(直感的・自動的な思考システム)が「褒め言葉の情報源」を素早く評価し、客観性を判断するプロセスです。
親密な相手からの褒め言葉は「内集団バイアス(身内びいき)」によって誇張されたものと無意識に見なされ、納得感が低くなります。一方、よく知らない他人からの言葉はそのバイアスがない分、客観的で正直な評価として受け取られ、承認欲求が強く満たされます。
補足:System 1・System 2とは
ダニエル・カーネマンが提唱した、人の思考を2つのシステムに分けて捉えるフレームワークです。
- System 1(直感的・自動的な思考システム)
意識せずに素早く働く思考。感情・直感・ヒューリスティック(経験則)を使い、ほぼ自動的に判断を下します。省エネルギーで高速ですが、バイアスが生まれやすい。 - System 2(意識的・熟慮的な思考システム)
意図的にゆっくり働く思考。論理・計算・分析を使い、認知的努力を要します。正確ですが、疲れやすく遅い。
認知バイアスの多くはSystem 1が「省エネ判断」を下す際に生まれます。
アロンソンの不貞の法則の具体例
具体例#1
仕事の意思決定|初対面の取引先からの評価
「少しお話しただけですが、○○さんってプレゼンがとても上手ですね」と、初めて会った取引先に言われた。普段上司に「説明がわかりやすい」と言われても当然に感じていたのに、今回はなぜか特別に嬉しかった。
上司(親密な相手)の評価は「立場上褒めているだけかも」とSystem 1が割り引いてしまいます。対して、利害関係のない初対面の相手の言葉は「本当にそう思っているはず」という客観性が付与され、強く響きます。
具体例#2
買い物・契約|見知らぬ人からのコーディネート評価
試着した服を「よく似合ってますね」と見知らぬ店員ではなく、隣で試着していた見知らぬ客に言われた。同じ言葉でも「この人は売る理由がない」と感じ、格段に嬉しかった。
店員は「売りたいから褒める」という動機が透けて見えるため、褒め言葉の価値を割り引いてしまいます。利害のない第三者からの言葉ほど、System 1が「信頼できる評価」と認定しやすいのです。
具体例#3
人物評価|SNSで見知らぬ人からのコメント
ブログに投稿した記事に、フォロワー数の多い見知らぬアカウントから「この分析は鋭い」とコメントがついた。身近な友人から「面白かった」と言われるより何倍も励まされた。
友人は「関係を良好に保つために褒める」動機があると感じてしまいます。見知らぬ人は「わざわざ褒める理由がない=本心から評価している」とSystem 1が解釈し、満足感が大きくなります。
関連するバイアス
- ハロー効果
初対面で褒め言葉を受けると、その人全体へのポジティブな印象が強化される。アロンソンの不貞の法則と組み合わさると、初対面の褒め言葉が相手への好感をさらに高めやすい。 - 初頭効果
最初に受けた情報が評価の基準になる傾向。初対面での褒め言葉はアロンソンの不貞の法則でより強く響き、かつ初頭効果で長く記憶されやすい。 - 確証バイアス
自分の信念に合う情報を優先する傾向。他人からの褒め言葉を「自分はそうだ」という証拠として集めやすくなり、過剰な自己評価につながることがある。
アロンソンの不貞の法則を避ける・和らげる方法
このバイアスを意識せずにいると、見知らぬ人からの根拠薄い称賛に過度に影響され、重要な判断を誤る可能性があります。
- 評価の出所より内容を見る:
誰が言ったかよりも、何を具体的に評価しているかに注目し、根拠がある称賛かどうかを確認する - 親しい人の言葉を過小評価しない:
親密な相手からのフィードバックは「身内びいき」ではなく、継続的な観察に基づく意見として積極的に活かす - 褒められた直後の判断を保留する:
見知らぬ相手から褒められた直後は感情が高揚しやすい。重要な意思決定は一時間置いてから改めて検討する
