雇用分野の合理的配慮の義務は、障害のある方が選考や就業で力を発揮するため、企業が過重な負担にならない範囲で支障を改善する義務です。
対応の中心は、本人との話し合い、業務上の支障の確認、実施できる措置の決定、理由と見直し時期の記録です。
この記事では、企業の人事・現場責任者向けに、合理的配慮の義務、対応手順、過重な負担の線引き、具体例、記録の残し方を整理します。
- 合理的配慮は、本人の希望を無条件に通すことではない
- 企業は、業務上の支障を確認し、実施できる措置を本人と話し合う
- 過重な負担に当たる場合も、理由を説明し代替案を検討する
- 決定内容・共有範囲・見直し時期を記録しておくことが重要
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
合理的配慮の義務とは
合理的配慮の義務とは、募集・採用や採用後の就業で生じる支障を、個別事情に応じて改善する企業の義務です。
障害者雇用促進法では、募集・採用時の均等な機会の確保と、採用後の均等待遇・能力発揮を妨げる事情の改善が定められています。
| 場面 | 企業が見ること | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 募集・採用 | 応募や選考で均等な機会を妨げる事情 | 本人からの申出を起点に方法を話し合う |
| 採用後 | 職務遂行や能力発揮の支障になっている事情 | 業務、職場環境、援助者、相談体制を確認する |
| 共通 | 過重な負担に当たるかどうか | できる・できないを記録し、代替案を探す |
- 診断名だけでなく、仕事上の支障を確認する
- 本人の意向を尊重し、複数の対応案を話し合う
- 過重な負担に当たる場合も、理由と代替案を示す
- 決定内容、共有範囲、見直し時期を記録する
合理的配慮の位置づけを、障害者雇用促進法全体の中で確認したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
出典:JEED「事業主の方へ」/障害者雇用促進法第36条の2〜第36条の4
合理的配慮と差別禁止の違い
差別禁止は、障害を理由に不利に扱わないためのルールです。合理的配慮は、働くうえの支障を個別に改善するルールです。
両者は別の論点ですが、実務では同じ選考・配属・教育場面で同時に確認します。
| 論点 | 避けるべき状態 | 企業側の対応 |
|---|---|---|
| 差別禁止 | 障害があることだけを理由に応募対象から外す | 職務上必要な能力・条件で判断する |
| 合理的配慮 | 筆談や手順書などの支障改善を検討しない | 本人と話し合い、必要な措置を検討する |
| 職務要件 | 配慮と職務要件を混同する | 必須条件と調整できる条件を分ける |
違い#1
障害を理由に一律排除しない
募集・採用では、障害があることだけを理由に応募や選考の機会を閉じる対応は避けます。
確認するのは、職務に必要な能力、勤務条件、選考で評価すべき事項です。障害名ではなく、職務を遂行するうえで必要な要件を満たせるか、そのために調整できる方法があるかを分けて判断します。
違い#2
配慮は職務要件をなくすことではない
合理的配慮は、必要な職務要件をなくす仕組みではありません。
例えば、期限内の報告は必要でも、報告方法を口頭からチャットやチェックリストへ変えられる場合があります。職務上必要な成果や安全条件は残しつつ、達成しやすい手段を調整する考え方です。
違い#3
雇用率カウントとは切り分ける
雇用率制度の対象確認と、働くうえの配慮相談は同じではありません。
雇用率の算定では手帳の有無が重要になりますが、合理的配慮では、選考や業務でどのような支障が生じているかを確認します。手帳の有無だけで相談対象を機械的に切り分けず、必要な調整を個別に検討することが大切です。
出典:JEED「事業主の方へ」/合理的配慮指針
企業が対応する手順
企業の対応は、申出や相談を受ける、支障を確認する、措置案を話し合う、記録して見直す、の順に進めます。
この流れを決めておくと、現場だけで抱え込む状態や、本人の希望を聞くだけで終わる状態を避けやすくなります。
- 本人の申出、相談、職場で見えている支障を受け止める
- 職務、環境、指示方法、勤務条件のどこが支障か確認する
- 本人の意向を聞き、実施できる措置を複数案で検討する
- 決定内容、理由、共有範囲、見直し時期を記録する
- 業務変更や体調変化に応じて、配慮の効果を見直す
手順#1
申出と業務上の支障を分ける
最初に確認するのは、診断名そのものではなく、選考や業務で何が支障になっているかです。
医療情報を広く集めず、職務遂行や安全確保に必要な範囲で本人の説明を聞きます。たとえば、困っている場面、支障が出る作業、避けたい環境、すでに効果があった工夫を確認すると、配慮内容を検討しやすくなります。
手順#2
措置案を一つに決め打ちしない
本人の希望は重要ですが、希望された方法だけが答えとは限りません。
手順書、担当変更、勤務時間、相談方法、設備、支援機関の助言など、複数案を並べて検討します。本人の意向を尊重しつつ、業務上必要な条件や職場全体への影響も確認し、実施しやすい方法を探します。
手順#3
決定理由を本人に説明する
実施する措置だけでなく、選ばなかった案や実施できない案の理由も説明できるようにします。
理由の説明は、後日の認識ずれを減らし、現場責任者の判断を守るためにも役立ちます。説明後は、配慮内容、開始時期、担当者、共有範囲、見直し時期を簡単に記録しておくと安心です。
手順#4
相談窓口とプライバシーを整える
採用後は、合理的配慮に関する相談に応じる体制をあらかじめ定め、労働者へ周知します。
共有する情報は、業務上必要な配慮内容、関係者、期間に絞り、診断名や通院内容を広げすぎないようにします。人事、直属上司、相談窓口の役割を分けておくと、現場だけで抱え込む状態を避けやすくなります。
合理的配慮は、採用計画や受け入れ準備とあわせて整理すると、現場での対応が進めやすくなります。採用から定着までの流れや、受け入れ前の準備を確認したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
合理的配慮における過重な負担の線引き
過重な負担に当たる場合、希望された措置をそのまま実施できないことがあります。
ただし、難しいと感じるだけで終わらせず、判断要素を整理し、過重でない代替策を検討する必要があります。
| 判断要素 | 確認する例 | 記録すること |
|---|---|---|
| 事業活動への影響 | 生産、サービス提供、安全への影響 | どの業務にどの程度影響するか |
| 実現困難度 | 設備、場所、人員、専門性の確保 | すぐできる案と準備が必要な案 |
| 費用・負担 | 購入費、改修費、複数者対応の負担 | 概算費用、利用できる支援 |
| 企業規模・財務状況 | 拠点規模、予算、代替配置の余地 | 会社として判断した理由 |
| 公的支援の有無 | 助成金、支援機関、ジョブコーチ | 相談先と確認結果 |
線引き#1
費用だけで判断しない
過重な負担は、費用の大小だけで決まるものではありません。
事業活動への影響、実現困難度、企業規模、財務状況、公的支援の有無を合わせて見ます。費用が発生する場合も、助成金や支援機関の活用、段階的な実施ができないかを確認してから判断します。
線引き#2
代替案を出して話し合う
希望された措置が難しい場合でも、合理的配慮の検討はそこで終わりません。
同じ目的を満たせる別の方法を示し、本人の意向を尊重しながら合意できる範囲を探します。たとえば、勤務時間の変更が難しい場合でも、休憩の取り方、業務量、相談頻度、担当業務の調整で支障を減らせる場合があります。
線引き#3
現場都合だけで結論を出さない
「前例がない」「忙しい」だけでは、検討した理由として不十分になりやすくなります。
人事、現場責任者、必要に応じて支援機関も交え、支障、業務要件、代替策を分けて整理します。現場だけで判断せず、会社として検討した経緯と理由を記録しておくことが大切です。
合理的配慮の代替案を社内だけで判断しにくい場合は、ジョブコーチなど外部支援の活用も検討できます。支援内容や相談前の準備は、以下の記事も参考にしてください。
出典:合理的配慮指針「第5 過重な負担」
場面別の具体例
合理的配慮は、障害名で一律に決めるのではなく、職務や職場で起きている支障に合わせて検討します。
ここでは、採用、入社後、体調変動、職場共有の4場面で、企業側の考え方を整理します。
- 障害名ではなく、職務や選考で起きている支障を見る
- 本人の申出をもとに、実施できる方法を複数案で検討する
- 配慮内容だけでなく、共有範囲や見直し時期も決める
- 現場で判断しにくい場合は、人事や支援機関にも相談する
具体例#1
面接での情報保障
応募者から、口頭だけの説明では理解が難しいという申出があるケースです。
面接手順を文書で示す、筆談を併用する、質問を短く区切る、休憩を入れるなどの方法を検討します。選考で確認すべき職務能力や評価項目は保ちつつ、応募者が内容を理解しやすい方法に調整する考え方です。
具体例#2
業務指示を文書化する
入社後に、口頭指示だけでは作業順序や優先順位を保ちにくいと分かったケースです。
作業手順書、チェックリスト、期限表、確認者を用意すると、本人も上司も同じ基準で確認できます。指示内容を文書化しておくことで、認識のずれや確認漏れを減らしやすくなります。
具体例#3
通院や体調変動を勤務設計に入れる
通院や体調変動により、特定の時間帯や繁忙期に負荷が高くなりやすいケースです。
休憩の取り方、面談頻度、業務量、在宅可否、代替担当を決め、一定期間後に効果を確認します。本人の状態だけでなく、業務の締切や周囲の負担も確認しながら、継続しやすい勤務設計を検討します。
具体例#4
現場共有の範囲を本人と決める
配属先にどこまで説明するかで、本人と人事・現場の認識がずれやすいケースです。
共有する中心は、診断名ではなく、指示方法、避けたい環境、相談先、緊急時の連絡方法です。誰に、どの範囲まで共有するかを本人と確認し、現場には業務上必要な情報に絞って伝えます。
体調変動への対応や現場共有の進め方を詳しく確認したい場合は、以下の記事も参考にしてください。
出典:合理的配慮指針/厚生労働省「職場での障害者差別の禁止と合理的配慮の提供」
記録に残す項目
合理的配慮の記録は、誰かを責めるためではなく、合意内容を維持し、見直しをしやすくするために残します。
特に、実施する内容だけでなく、検討した案、実施しない理由、次回確認日を残すことが重要です。
| 記録項目 | 書く内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相談日・関係者 | 本人、人事、上司、支援者の参加有無 | 共有範囲を本人と確認する |
| 支障の内容 | 選考・業務・環境のどこで困っているか | 診断名だけで書かない |
| 検討した案 | 希望案、代替案、実施可能な案 | 不採用案の理由も残す |
| 決定内容 | 配慮内容、担当者、期間、開始日 | 誰が何をするかまで書く |
| 見直し | 確認日、効果、変更の有無 | 業務変更時にも確認する |
記録#1
本人同意と共有範囲を分ける
本人が人事に話した内容を、そのまま現場全体へ共有してよいわけではありません。
現場に必要なのは、業務上の配慮、連絡方法、相談先など、仕事を進めるための情報です。誰に、どの範囲まで共有するかを本人と確認し、記録にも残しておくと認識のずれを防ぎやすくなります。
記録#2
見直し日を最初に決める
合理的配慮は、一度決めたら固定するものではありません。
入社1週間後、1か月後、配置変更後など、仕事の状態が変わるタイミングで効果を確認します。見直し日を最初に決めておくと、配慮が合っているか、業務量や共有範囲を変える必要があるかを確認しやすくなります。
記録#3
支援機関に相談した結果も残す
社内だけで判断しにくい場合は、ハローワークや地域障害者職業センターへの相談も選択肢です。
相談日、相談先、助言内容、社内で採用した対応を残すと、次回以降の判断材料になります。助言をそのまま採用しなかった場合も、社内事情や代替案とあわせて理由を記録しておくとよいでしょう。
支援機関との連携方法や、相談前に企業側で準備しておくことを確認したい場合は、以下の記事も参考にしてください。
出典:JEED「雇用支援・相談窓口」
合理的配慮の義務に関するよくある質問
- 本人から申出がない場合も対応が必要ですか?
-
募集・採用時は、本人からの申出を起点に支障となる事情を確認します。
採用後に業務上の支障が見えた場合は、決めつけず本人と話し合い、必要な範囲で対応を検討します。
- 合理的配慮は希望どおりに対応できないと問題になりますか?
-
希望された措置が過重な負担に当たる場合は、別の方法を検討することがあります。
その場合も、実施できない理由を説明し、代替案を本人と話し合うことが重要です。
- 合理的配慮はどこまで対応すれば十分ですか?
-
一律の答えはなく、本人の事情、職務内容、職場環境、企業側の負担を踏まえて個別に判断します。
話し合いの内容、検討した案、採用した理由、見直し時期を記録しておきましょう。
- 合理的配慮は障害者手帳がある人だけが対象ですか?
-
雇用率のカウントと合理的配慮の相談対象は同じではありません。
手帳の有無だけで一律に判断せず、選考や業務で生じている支障と必要な調整を個別に確認します。
- 合理的配慮の具体例にはどのようなものがありますか?
-
面接手順の文書化、筆談の併用、業務指示のチェックリスト化、休憩時間や面談頻度の調整などがあります。
障害名で一律に決めず、職務上の支障に合わせて検討します。
- 合理的配慮は現場だけで判断してよいですか?
-
現場の情報は重要ですが、現場だけで完結させると判断理由や記録が不足しやすくなります。
人事と連携し、必要に応じて支援機関や産業保健スタッフの助言も検討します。
まとめ
雇用分野の合理的配慮の義務は、障害のある方の希望を無条件に通すことではなく、働くうえの支障を個別に改善するための実務です。
企業側は、本人との対話、業務上の支障の確認、過重な負担の整理、代替案の検討、記録、見直しを一つの流れとして整える必要があります。
まずは、相談窓口、記録項目、現場への共有範囲、見直し時期を社内で確認しましょう。判断が難しい場合は、ハローワークや地域障害者職業センターに相談し、職務要件と配慮内容を分けて整理することが大切です。
