身体障害のある方の採用では、障害名や手帳等級だけで判断せず、職務要件と働く環境を先に分けて確認します。
必要な配慮は、視覚、音声・言語、肢体不自由、内部障害などの区分だけで決まるものではありません。
この記事では、企業の人事・現場責任者向けに、求人票、面接、職場環境、入社後運用の整え方を整理します。
最初に決めること
- 担当業務に必要な移動、姿勢、読み書き、会話の条件
- 本人と相談して決める配慮と、会社側で先に整える環境
- 通勤、避難、機器利用、外部支援を誰が管理するか
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
身体障害のある方の採用で押さえる前提
身体障害のある方の採用では、身体機能の制限と、仕事で必要な動作を切り分けて確認します。
同じ身体障害者手帳を持っていても、使いやすい機器、移動方法、疲れやすい場面は人によって異なります。
前提#1
等級だけで職務適性を決めない
身体障害者手帳の等級は制度確認に必要ですが、職務適性をそのまま示すものではありません。
採用判断では、手帳情報よりも、予定業務で必要な移動、操作、連絡、休憩の条件を確認します。
出典:厚生労働省「身体障害者障害程度等級表」(2026年5月28日確認)。
前提#2
合理的配慮は本人との対話で決める
雇用分野の合理的配慮は、本人の申し出や状況を踏まえ、事業主と本人が話し合って決めます。
希望どおりの対応が難しい場合も、過重な負担にならない代替案を検討する流れが基本です。
出典:厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」。
前提#3
面接で聞く情報を必要最小限にする
採用選考では、本人の適性・能力に関係のない事項を広く把握しない姿勢が重要です。
病名や詳細な医療情報を聞き出すより、仕事を進めるうえで必要な配慮と環境条件を確認します。
出典:厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」(2026年5月28日確認)。
区分別に配慮の重心を分ける
身体障害の配慮は、障害区分ごとに入口を分けると整理しやすくなります。
ただし、区分はあくまで確認の出発点です。最終的には、本人が担当業務を行う場面に合わせて調整します。
区分#1
視覚障害は情報の受け取り方を確認する
視覚障害では、紙資料、画面表示、掲示物、動線案内をどの方法で確認するかが主な論点です。
スクリーンリーダー、拡大表示、音声読み上げ、テキストデータの事前共有などを本人と確認します。
点字だけに限定せず、本人が日常的に使っているツールと社内システムの相性を見ることが実務的です。
区分#2
音声・言語の障害は代替手段を決める
音声・言語・そしゃく機能の障害では、口頭で話すことを前提にしすぎない設計が必要です。
面接、会議、電話、緊急連絡で、チャット、筆談、メール、代理連絡をどう使うかを決めます。
話す速度や発声の聞き取りやすさだけで評価せず、職務に必要な情報伝達が成立するかを確認します。
区分#3
肢体不自由は動線と姿勢を確認する
肢体不自由では、移動、着席、手指操作、荷物の持ち運び、長時間同じ姿勢でいる負担を確認します。
車椅子、杖、装具、片手操作など、使う方法によって必要な机、通路、棚、端末配置は変わります。
バリアフリー改修だけでなく、在宅勤務、席配置、作業手順の変更も選択肢に入れます。
区分#4
内部障害は見えない負荷を確認する
内部障害では、外見からは分かりにくい通院、体力、服薬、休憩、トイレ利用などが論点になります。
腎臓、心臓、呼吸器、ぼうこう・直腸、小腸、免疫、肝臓など、必要な配慮は状況により異なります。
本人が共有したい範囲を尊重し、業務上必要な情報だけを上司や現場に伝える運用にします。
区分#5
聴覚障害は別記事で詳しく確認する
聴覚障害では、音声情報を文字、視覚表示、チャット、字幕へ置き換える設計が中心になります。
本記事では概観にとどめ、面接配慮や電話代替の詳細は関連記事で確認してください。
求人票と職場環境で確認すること
求人票と職場環境では、応募者が働く場面を具体的に想像できる情報を出します。
「配慮あり」と書くだけでは、何を相談できるのか分かりません。作業条件と相談窓口を分けて示します。
求人票#1
業務動作を言葉にする
求人票では、作業名だけでなく、移動距離、立ち座り、端末操作、資料確認、対人連絡の量を書きます。
たとえば「事務補助」だけでなく、紙資料の仕分け、データ入力、来客対応の有無まで分けます。
応募者は、業務動作が見えるほど、自分の補助具や支援機器で対応できるかを判断しやすくなります。
求人票#2
通勤と社内動線を先に点検する
通勤は本人の問題として切り離さず、勤務開始時刻、駅からの経路、駐車場、エレベーターを確認します。
社内では、入口、受付、トイレ、会議室、休憩場所、避難経路まで一度歩いて確認します。
現場見学の前に写真や図面を共有できると、本人が相談したい点を整理しやすくなります。
求人票#3
支援機器と社内システムの相性を見る
支援機器は、導入すれば終わりではありません。社内端末、セキュリティ設定、業務ソフトとの相性が重要です。
スクリーンリーダー、音声入力、トラックボール、拡大表示などを使う場合は、試用の時間を確保します。
出典:JEED「助成金」「作業施設の事例」(2026年5月28日確認)。
- 入口、席、トイレ、休憩場所、避難経路を本人目線で確認する
- 業務ソフト、端末、支援機器を実作業に近い形で試す
- 設備整備、機器購入、人的支援の担当者と期限を決める
面接で確認すること
面接では、病歴や等級を掘り下げるのではなく、担当業務を行うための条件を確認します。
質問の軸を職務要件にそろえると、応募者も答えやすく、面接官ごとの差も小さくなります。
面接#1
面接環境を事前に伝える
面接前に、会場の場所、階数、エレベーター、所要時間、面接官の人数を伝えます。
オンライン面接を行う場合は、使用ツール、字幕の有無、チャット利用の可否も案内します。
事前情報があるだけで、移動や機器準備の負担を見積もりやすくなります。
面接#2
配慮事項を業務場面に結びつけて聞く
配慮の確認は、担当予定の仕事とセットで聞くと、本人も具体的に答えやすくなります。
| 確認軸 | 質問例 | 目的 |
|---|---|---|
| 移動 | 社内の移動で事前に確認したい場所はありますか。 | 動線確認 |
| 操作 | 端末操作で使い慣れた入力方法はありますか。 | 機器調整 |
| 情報 | 資料は紙、PDF、テキストのどれが確認しやすいですか。 | 資料形式 |
| 通院 | 勤務日や時間帯で、事前に調整が必要なことはありますか。 | 勤務条件 |
面接#3
聞かないことを面接官でそろえる
面接官ごとに質問が変わると、応募者は必要以上に医療情報を話さなければならないと感じることがあります。
等級、診断名、治療内容を直接聞く前に、その情報が職務遂行の判断に本当に必要かを確認します。
必要な情報は「この業務を行うために、どの環境なら進めやすいか」という形で聞きます。
入社前後の合理的配慮を運用する
合理的配慮は、採用時に一度決めて終わりではありません。
入社前、初期配属、定着期の各段階で、本人と会社の双方が見直せる仕組みにします。
運用#1
合意メモに残す
配慮内容は、本人、上司、人事が同じ理解を持てるよう、短い合意メモに残します。
書く項目は、業務上困る場面、会社が行う対応、本人が行う連絡、見直し時期の4点で十分です。
医療情報そのものではなく、仕事を続けるための運用条件として記録します。
運用#2
共有範囲を本人同意で決める
身体障害の配慮は、現場の協力が必要な一方で、個人情報の共有範囲を広げすぎない配慮も必要です。
たとえば、通院日は上司に共有し、詳しい疾患名は共有しない、という分け方もあります。
共有する情報、共有先、更新タイミングを本人同意のうえで決めます。
運用#3
支援機器は試用と予備手段を用意する
支援機器は、実作業で試してから本導入すると失敗を減らせます。
端末更新や社内システム変更で使えなくなることもあるため、代替手段も決めておきます。
情報システム部門、人事、現場責任者が早めに同じテーブルで確認することが重要です。
運用#4
外部支援を必要な場面で使う
職場内だけで判断が難しい場合は、ハローワーク、地域障害者職業センター、ジョブコーチ支援を検討します。
ジョブコーチ支援は、本人だけでなく、事業主や職場の従業員への助言にもつながります。
出典:厚生労働省「職場適応援助者支援事業について」(2026年5月28日確認)。
場面別の具体例
ここでは、身体障害のある方の採用で起こりやすい場面を3つに分けて整理します。
具体例#1
視覚障害のある方に資料形式を合わせる
面接前にPDFだけを送ると、読み上げソフトで確認しにくい場合があります。
この場合は、テキストデータ、見出し付きファイル、画像内文字の代替説明を用意します。
採用後も、会議資料やマニュアルを同じ形式で出すと、情報格差を減らしやすくなります。
具体例#2
車椅子利用者の席と避難経路を確認する
席に着くまでの通路が狭いと、業務そのものより移動が負担になることがあります。
机の高さ、通路幅、プリンターまでの距離、会議室の席配置、避難時の集合場所を確認します。
本人だけに対応を任せず、総務、人事、現場責任者で改善できる箇所を分担します。
具体例#3
内部障害のある方の通院日を運用に入れる
定期通院や透析などがある場合、勤務時間と業務締切の設計が重要になります。
通院日を固定し、会議や締切を避けるだけでも、本人と現場の見通しが立ちやすくなります。
病名を共有しなくても、勤務調整のルールと緊急時の連絡先を決めておけば実務は回せます。
注意点と避けたい対応
身体障害のある方の採用では、善意の配慮でも本人の働き方を狭めることがあります。
配慮を増やす前に、職務要件、本人の希望、現場の安全、情報共有の範囲を確認します。
注意点#1
障害名から業務を決めつけない
「視覚障害なら電話業務」「車椅子なら在宅勤務」のように、障害名だけで業務を決めないようにします。
本人の経験、支援機器、職務要件を確認すれば、想定より広い業務を任せられる場合があります。
一方で、安全上の制約がある業務は、理由と代替案を具体的に説明します。
注意点#2
災害時対応を後回しにしない
入社後に見落とされやすいのが、地震、火災、停電時の避難と連絡方法です。
エレベーターが止まる場合、誰がどこへ誘導するか、本人がどの情報を必要とするかを確認します。
在宅勤務者にも、安否確認、機器故障時の代替連絡、出社可否の判断基準を共有します。
注意点#3
配慮と評価の線引きを残す
合理的配慮は、評価を甘くすることではなく、能力を発揮するうえでの支障を減らす取り組みです。
成果物の基準、納期、相談方法、配慮の見直し条件を分けて記録すると、評価のぶれを減らせます。
うまくいかないときも、本人の努力不足にせず、環境、業務量、指示方法のどこに課題があるかを見ます。
よくある質問
身体障害のある方の採用で、人事担当者からよく出る疑問を整理します。
FAQ#1
手帳等級は面接で確認してよいですか
障害者雇用枠や制度上の確認に必要な場合はありますが、職務適性を判断する目的で等級を深掘りするのは避けます。
面接では、担当業務に必要な配慮、通勤、機器、勤務時間の条件を中心に確認します。
FAQ#2
設備改修ができないと採用できませんか
設備改修だけが配慮ではありません。席配置、在宅勤務、業務手順、支援機器、勤務時間の調整も選択肢です。
ただし、安全に働ける環境が作れない場合は、代替案と限界を本人に説明し、支援機関にも相談します。
FAQ#3
内部障害はどこまで現場に共有しますか
共有するのは、業務に必要な範囲に限定します。疾患名ではなく、勤務調整や緊急時対応だけで足りる場合もあります。
本人同意を前提に、誰へ、何を、いつまで共有するかを合意メモに残します。
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