障害者雇用で退職勧奨を検討する前に確認することは、退職の可否ではありません。業務上の事実、合理的配慮の検討状況、改善機会、本人の自由意思を分けて確認することが先です。
退職の話が先に出ると、本人には退職を強いられているように伝わることがあります。企業側も、現場の困りごと、評価、配慮、労務手続きが混ざったまま進めると、説明しにくい対応になります。
この記事では、企業の人事担当者・現場責任者向けに、障害者雇用で退職勧奨を検討する前の確認手順、記録方法、伝え方、支援機関との連携を整理します。
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
退職勧奨の前に確認する基本方針
基本方針は、退職ありきで進めず、業務事実と雇用管理上の対応を分けて確認することです。
退職勧奨は、会社が本人に退職を勧める行為です。会社が一方的に労働契約を終わらせる解雇とは異なりますが、本人が断れる余地を失う進め方になると、退職強要と受け止められるおそれがあります。
障害者雇用では、障害の有無ではなく、職務、勤務状況、配慮後の結果、改善機会に基づいて判断過程を残します。
- 業務事実:いつ、どの業務で、何が起き、どの影響があったか
- 合理的配慮:本人の意向、会社が実施した調整、未検討の選択肢
- 改善機会:期間、目標、支援者、次回確認日
- 本人の意思:退職勧奨に応じるかを本人が選べる状態
- 労務判断:就業規則、雇用契約、解雇・雇止めとの違い
出典:厚生労働省「退職、解雇、雇止めなど」「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」(2026年5月28日確認)
退職勧奨・解雇・合意退職を混同しない
退職勧奨を検討する場面では、合意退職、解雇、雇止めとの違いを先に整理します。言葉が曖昧なままだと、本人への説明も社内記録も不安定になります。
| 区分 | 意味 | 企業側の注意点 |
|---|---|---|
| 退職勧奨 | 会社が本人に退職を勧める | 本人が応じるか拒否するかを選べる状態にする |
| 合意退職 | 会社と本人が合意して労働契約を終える | 合意の有無、説明内容、検討時間を記録する |
| 解雇 | 会社が一方的に労働契約を終了させる | 客観的合理性や社会通念上の相当性など別の労務判断になる |
| 雇止め | 有期契約を更新しない | 契約更新の実態、予告、期待権の有無を確認する |
厚生労働省の労働契約ポータルサイトでは、自由な意思決定を妨げる退職勧奨が違法な権利侵害に当たる場合があると説明されています。
そのため、退職勧奨を行う場合でも、「退職を決める面談」ではなく、「会社の考えを説明し、本人が検討するための場」として設計します。
出典:厚生労働省「労働契約の終了」「労働契約の終了に関するルール」(2026年5月28日確認)
退職勧奨に進む前の確認項目
確認項目は、業務事実、合理的配慮、本人面談、改善機会、社内承認に分けます。現場の限界感だけで進めると、対応の根拠が弱くなります。
確認#1
問題を業務事実で書き出す
「勤務態度が悪い」「仕事が合わない」のような評価語を、観察できる事実に置き換えます。
たとえば「月次処理の締切を3回連続で過ぎた」「報告が翌日になり、顧客対応が止まった」のように、日時、業務、影響を分けて残します。
確認#2
合理的配慮を検討した記録を確認する
合理的配慮は、障害のある社員が能力を発揮するうえで支障になっている事情を改善する調整です。成果基準をなくすことではありません。
指示の見える化、作業量の調整、相談先の明確化、勤務時間や休憩の調整など、会社として検討した内容と結果を記録します。
出典:厚生労働省「合理的配慮指針」(2026年5月28日確認)
確認#3
本人面談で認識を合わせる
本人面談では、会社側の困りごとだけでなく、本人がどの作業で止まっているか、どの配慮が機能しているかを確認します。
聞き方は「なぜできないのか」ではなく、「どの場面で止まりやすいか」「何があると進めやすいか」にします。医療情報ではなく、職場で調整できる情報に絞ります。
確認#4
改善期間と評価項目を決める
改善を求める場合は、期間、確認項目、支援方法を明確にします。曖昧なままだと、本人も現場も何を変えればよいか分かりません。
「2週間後に、遅刻回数、納期遵守、相談の早さを確認する」のように、行動で見える項目にします。配慮を試す期間と評価する期間を混ぜないことも大切です。
確認#5
社内の労務確認を通す
退職勧奨に進む前に、就業規則、雇用契約、過去の面談記録、配慮記録、同種事案との扱いを確認します。
現場責任者だけで判断せず、人事、労務担当、必要に応じて社会保険労務士や弁護士へ確認します。障害者雇用の個別対応と労務手続きは分けて扱います。
企業側の対応手順
企業側は、記録、面談、配慮の再検討、改善期間、労務確認、本人への説明の順に進めます。
退職勧奨前の対応フロー
- 事実を整理する
日時、業務、影響、これまでの指導・面談をまとめます。 - 本人と認識を合わせる
会社の見立て、本人の困りごと、希望する配慮を分けます。 - 配慮と業務調整を試す
作業量、手順、相談先、勤務条件の調整を記録つきで行います。 - 改善期間を確認する
見る項目、期限、支援担当、次回面談日を決めます。 - 退職勧奨の適否を確認する
自由意思、説明内容、回答期限、相談先を整理します。
この順番にすると、退職の話が先行しにくくなります。現場の困りごとも、感情ではなく記録に基づいて扱いやすくなります。
手順#1
改善可能性を小さく試す
業務調整は、一度に大きく変えるよりも、期限、作業量、手順、相談方法のどれか一つから試します。
報告の締切を午前中に固定する、作業を30分単位に分ける、判断に迷う場面を一覧化するなど、現場で実行できる形に落とします。
手順#2
退職以外の選択肢を検討する
配置転換、職務の切り出し、勤務時間の調整、支援機関との連携など、退職以外の選択肢を整理します。
すべての選択肢を実行できるとは限りません。ただし、検討した内容と実行できない理由を残すことで、会社の判断過程を説明しやすくなります。
手順#3
説明文面を先に整える
本人へ退職勧奨を説明する場合は、口頭だけで進めず、説明項目を文面化します。
退職を勧める理由、会社が試した対応、本人が選べる選択肢、回答期限、相談先を整理します。その場で署名を求める運用は避けます。
法的・労務上の注意点
退職勧奨では、本人の自由意思、障害差別の回避、解雇・雇止めとの切り分けを確認します。個別の適否は、雇用契約、就業規則、勤務実態、面談経緯で変わります。
注意点#1
本人が断れる余地を明示する
退職勧奨は、本人が応じるかどうかを選べる手続きです。断れば不利益になる、回答するまで帰れない、と受け止められる進め方は避けます。
説明後は、持ち帰って検討する時間を設けます。相談先や回答期限も明示し、面談記録には本人へ説明した選択肢を残します。
注意点#2
障害を理由に対象者を選ばない
障害のある社員だけを退職勧奨の対象にするなど、障害そのものを理由にした扱いは避けます。
対象者を検討する場合は、業務能力、勤務状況、改善機会、配慮後の結果など、業務上の基準に基づいて整理します。同じ状況の社員との扱いの差も確認します。
出典:厚生労働省「障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」(2026年5月28日確認)
注意点#3
解雇や雇止めへ進む場合は別判断にする
退職勧奨を本人が拒否した場合、退職合意が成立した前提で扱ってはいけません。
その後に解雇や雇止めを検討する場合は、退職勧奨とは別の労務判断です。就業規則、契約期間、予告、改善機会、客観的な記録を改めて確認します。
退職勧奨に進む前の具体例
具体例では、業務不振、勤怠不安定、職場トラブルの場面で、退職勧奨の前に行う確認を整理します。
具体例#1
処理ミスが続いている
事務処理のミスが続き、現場が「このまま任せられない」と感じているケースです。
退職の話に進む前に、作業手順、確認項目、締切、ダブルチェックの有無を見ます。本人の能力だけに原因を集約せず、指示方法や業務量も確認します。
具体例#2
勤怠が安定しない
遅刻や欠勤が続き、現場のシフト調整が難しくなっているケースです。
通院、体調変動、勤務時間、休憩の取り方を本人と確認します。医療判断ではなく、勤務上の条件として整理し、調整できる範囲と業務上必要な出勤基準を分けます。
具体例#3
周囲とのトラブルが続く
報告の仕方や言葉の受け止め方をめぐり、チーム内の不満が大きくなっているケースです。
誰が、いつ、どの場面で困っているかを分けます。本人だけでなく、上司の伝え方、相談窓口、チーム内の役割分担も見直します。
支援機関や相談先の使い方
支援機関は、退職勧奨の根拠づくりではなく、職場適応や業務調整の可能性を確認するために使います。
相談先#1
ハローワークへ雇用管理を相談する
厚生労働省は、障害者を雇用する事業主に対して、ハローワークが雇用管理上の配慮への助言や専門機関の紹介を行うと案内しています。
社内だけで判断しにくいときは、退職の結論ではなく、職務や配慮の見直しについて相談します。
出典:厚生労働省「事業主の方へ」(2026年5月28日確認)
相談先#2
ジョブコーチへ職場適応を相談する
ジョブコーチは、障害のある社員の職場適応に課題がある場合に、職場で専門的な支援を行う制度です。
本人への支援だけでなく、上司や同僚の関わり方、作業指導、社内で支援を続ける体制づくりも相談しやすくなります。
出典:厚生労働省「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」、JEED「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援」(2026年5月28日確認)
相談先#3
労務トラブルは専門窓口へ相談する
退職勧奨の進め方に迷う場合は、社内の労務担当、社会保険労務士、弁護士などに確認します。
厚生労働省の総合労働相談コーナーは、労働者と事業主のどちらからの相談にも対応しています。社内で判断が割れる場合の相談先として把握しておくと安心です。
出典:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(2026年5月28日確認)
退職勧奨前のチェックリスト
退職勧奨の検討に入る前に、次の項目を確認します。一つでも曖昧なら、退職の説明より先に事実整理や配慮の見直しへ戻ります。
- 問題となっている事実を、日時、業務、影響で記録している
- 本人面談で、困りごとと配慮希望を確認している
- 合理的配慮や業務調整を検討し、結果を残している
- 改善期間、確認項目、支援担当を決めている
- 退職以外の選択肢を検討している
- 本人が退職勧奨を拒否できることを説明できる
- その場で署名を迫らない進め方にしている
- 労務担当または専門家の確認を通している
関連して確認したい記事
退職勧奨の前後では、解雇との違い、注意の伝え方、定期面談、支援機関連携を合わせて確認すると判断しやすくなります。
よくある質問
FAQ#1
本人が退職勧奨を拒否した場合はどうなりますか?
退職勧奨は、本人が応じるかどうかを選べる手続きです。拒否された場合は、退職合意が成立した前提で扱ってはいけません。
その後は、業務上の問題、合理的配慮、配置、改善機会を改めて整理します。解雇や雇止めを検討する場合は、退職勧奨とは別の労務判断になります。
FAQ#2
障害特性が原因なら退職勧奨してもよいですか?
障害特性だけを理由に退職を促す進め方は避けます。業務上の支障、合理的配慮、改善可能性を分けて確認します。
配慮後も業務遂行が難しい場合でも、判断基準を業務事実に置き、障害の有無で対象者を選ばないことが重要です。
FAQ#3
退職合意書をその場で提示してもよいですか?
提示自体の可否は個別事情によりますが、その場で署名を迫る進め方は避けたほうが安全です。
本人が内容を持ち帰って確認できる時間を取り、相談先や回答期限を明示します。文面は労務担当や専門家の確認を受けます。
