障害者雇用促進法は、雇用率の達成だけでなく、差別禁止、合理的配慮、職業リハビリテーション、納付金制度まで定める法律です。
企業がまず確認すべきことは、「何人採るか」だけではありません。職務要件、配慮の相談手順、現場の受け入れ体制をあわせて整える必要があります。
この記事では、人事担当者・現場責任者向けに、障害者雇用促進法の要点と、2026年7月の雇用率引き上げも踏まえた実務対応を整理します。
- 障害者雇用促進法は、雇用率だけでなく、差別禁止や合理的配慮も定める法律です。
- 企業は、対象事業主かどうか、必要な雇用人数、報告・納付金の有無を確認します。
- 募集・採用・配置・定着では、職務要件と合理的配慮を分けて整理することが大切です。
- 2026年7月以降は、民間企業の法定雇用率が2.7%、対象範囲が37.5人以上になります。
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、障害のある労働者が能力を発揮し、職業生活を安定して続けられるようにするための法律です。
正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」です。企業に対する雇用義務、差別禁止、合理的配慮、職業リハビリテーションなどを定めています。
実務では、採用人数の管理だけでなく、募集条件、面接での確認事項、配置後の相談体制まで含めて運用します。
- 求人票で職務内容と必要な条件を明確にする
- 面接では職務遂行に関係する配慮事項を確認する
- 入社後の相談先、記録方法、見直し時期を決める
出典:e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」/厚生労働省「障害者雇用対策」
企業が押さえる主な義務
障害者雇用促進法への対応は、雇用率、差別禁止、合理的配慮、報告、納付金、相談体制に分けると整理しやすくなります。
| 論点 | 企業が確認すること | 実務で見る場面 |
|---|---|---|
| 法定雇用率 | 常時雇用する労働者に対し、一定割合以上の障害のある労働者を雇用する | 人員計画、採用目標、6月1日時点の確認 |
| 差別禁止 | 障害があることを理由に、募集・採用などで不当な差別的取扱いをしない | 求人票、面接、配置、昇進、教育訓練 |
| 合理的配慮 | 能力を発揮するうえでの支障を、本人との対話を通じて調整する | 業務指示、勤務時間、設備、相談方法 |
| 雇用状況報告 | 対象事業主は、毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークへ報告する | 人事台帳、労働時間、手帳等の確認 |
| 納付金制度 | 100人超の事業主で未達成の場合、不足人数に応じた納付金を確認する | 年度計算、申告申請、採用計画 |
| 推進・相談体制 | 障害者雇用推進者や相談対応の担当を明確にする | 人事担当、現場責任者、相談窓口 |
表の各項目は、別々に処理すると抜け漏れが出ます。採用前、選考時、入社時、定着期の流れに沿って確認するのが実務的です。
出典:厚生労働省「障害者雇用対策」、厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」、JEED「障害者雇用納付金制度の概要」
法定雇用率と2026年7月の変更
民間企業の法定雇用率は、2026年6月までは2.5%、2026年7月以降は2.7%です。
対象事業主の範囲も変わります。民間企業では、2026年6月までは40.0人以上、2026年7月以降は37.5人以上が対象です。
| 時期 | 民間企業の 法定雇用率 | 対象事業主の範囲 | 実務上の確認 |
|---|---|---|---|
| 2026年6月まで | 2.5% | 40.0人以上 | 現在の雇用義務と不足人数を確認する |
| 2026年7月以降 | 2.7% | 37.5人以上 | 新たに対象になるか、常用労働者数を確認する |
37.5人以上という数字は、短時間労働者を0.5人で数える制度上の考え方と関係します。正社員数だけで対象外と判断しないよう注意が必要です。
また、2024年4月以降は、一部の週所定労働時間10時間以上20時間未満の労働者も雇用率上0.5カウントできる扱いになっています。
2026年7月以降の変更点や、企業が事前に準備すべきことを詳しく確認したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」、厚生労働省「障害者雇用対策」
差別禁止と合理的配慮の考え方
差別禁止は「不利に扱わないこと」、合理的配慮は「働くうえでの支障を個別に調整すること」です。
雇用分野では、企業規模や業種にかかわらず、障害があることを理由に応募を認めない、業務上不要な条件を付けるなどの扱いは禁止されています。
| 区分 | 意味 | 実務例 |
|---|---|---|
| 差別禁止 | 障害があることだけを理由に不利な扱いをしない | 求人応募、配置、昇進、教育訓練で一律に排除しない |
| 合理的配慮 | 能力を発揮するうえでの支障を個別に調整する | 指示方法、勤務時間、相談方法、作業環境を見直す |
| 過重な負担 | 事業主側の負担が過度な場合は、代替案を検討する | 希望をそのまま実施できない場合も理由と代替案を残す |
合理的配慮は、本人の希望をすべて実施する意味ではありません。職務上の必要性、実施可能性、他の従業員との業務分担を踏まえて対話します。
- 口頭指示だけでなく、手順書やチャットでも伝える
- 定期面談の日時と相談先を固定する
- 作業の優先順位や静かな作業場所を調整する
合理的配慮の具体的な進め方や、本人との対話、過重な負担の考え方を詳しく確認したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
企業側の対応手順
障害者雇用促進法への対応は、制度担当者だけで完結させず、採用、現場、人事労務、支援機関の役割を分けて進めます。
- 常用雇用労働者数を確認し、対象事業主か判断する
- 法定雇用率をもとに、不足人数を試算する
- 採用人数だけでなく、任せる職務と勤務条件を整理する
- 合理的配慮の相談先、記録方法、見直し時期を決める
- 雇用状況報告、納付金、支援機関への相談もあわせて確認する
対応手順#1
対象事業主か確認する
まず、常用雇用労働者数を整理します。2026年7月以降は、民間企業では37.5人以上が対象範囲です。
週所定労働時間、雇用期間の見込み、短時間労働者の扱いを確認し、制度用の人数表を作ります。
正社員数だけで判断せず、パート・アルバイトなどを含めた常用雇用労働者数を人事台帳や労働時間の記録と照らし合わせて確認します。
対応手順#2
不足人数を試算する
常用雇用労働者数を整理したら、法定雇用率を掛けて必要人数を確認します。2026年7月の改定により、不足が増える企業もあります。
不足人数は、採用人数だけに置き換えないことが重要です。部署、職務、勤務時間、支援体制まで同時に設計します。
不足がある場合は、いつまでに何人採用するかだけでなく、どの部署でどの仕事を任せるか、入社後に誰が相談を受けるかまで確認します。
対応手順#3
求人票と職務要件を分けて整理する
求人票を作る前に、職務の目的、作業量、必要なスキル、指示方法、評価基準を整理します。
「障害者雇用枠だから簡単な仕事」と置くと、入社後のミスマッチが起きやすくなります。職務要件と配慮事項は分けて確認します。
たとえば、業務上必要な条件と、配慮によって調整できる条件を分けておくと、求人票や面接で確認する内容を整理しやすくなります。
職務の整理や業務切り出しの具体的な進め方を確認したい場合は、以下の記事も参考にしてください。
対応手順#4
合理的配慮の相談手順を決める
合理的配慮は、採用時だけでなく配置後にも見直します。相談先、記録方法、見直し時期を先に決めておくと、現場任せになりにくくなります。
本人から申し出があったときだけでなく、業務上の支障が見えたときに、誰が面談を設定するかも決めます。
配慮内容は一度決めて終わりにせず、業務内容や体調、職場環境の変化に応じて見直せる形にしておくことが大切です。
対応手順#5
報告・納付金・相談先を確認する
対象事業主は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況報告を確認します。常用労働者100人超で法定雇用率が未達成の場合は、障害者雇用納付金制度も関係します。
報告や納付金は、常用労働者数、障害者数、労働時間、手帳等の確認にも関係する項目です。人事・労務だけでなく、必要に応じて経理担当とも期限や手続きを共有しておくと安心でしょう。
自社だけで判断しにくい場合は、管轄のハローワーク、地域障害者職業センター、支援機関への相談も選択肢です。相談時は、求人票、職務一覧、勤務条件、配慮事項の整理メモを用意しておくと、話が進めやすくなります。
実務で避けたい対応
避けたいのは、制度の一部だけを切り取って運用することです。人数、職務、配慮、記録、相談体制をつなげて確認します。
- 雇用率だけを見て、職務設計や定着支援を後回しにする
- 障害種別だけで、任せる仕事や採用可否を一律に判断する
- 本人の同意や業務上の必要性を整理せず、障害に関する情報を共有する
- 合理的配慮を「特別扱い」として説明し、本人と現場の対立にする
- 納付金を払えば、雇用義務への対応が終わると考える
特に、雇用率達成を急ぐ場面ほど、現場への説明と受け入れ準備が必要です。採用後に調整すればよいという前提で進めると、早期離職につながります。
企業で起きやすい場面別の対応例
ここでは、企業で起きやすい場面に分けて、障害者雇用促進法への対応を整理します。
- 39人規模の企業は、2026年7月以降に対象事業主になる可能性を確認する
- 120人規模で未達成の場合は、納付金だけでなく採用・定着の見直しも行う
- 採用面接では、障害名ではなく職務遂行に関係する配慮事項を確認する
具体例#1
常用雇用労働者39人規模で2026年7月から対象になる
常用雇用労働者が39人の企業は、2026年6月までの40.0人以上という基準では対象外になる場合があります。
しかし、2026年7月以降は37.5人以上が対象範囲です。事前に業務切り出し、求人票、相談担当、配属候補を確認します。
小規模な企業では、1人の受け入れが業務分担に大きく影響することがあります。雇用率の確認と職務設計を同時に進めることが重要です。
具体例#2
120人規模で未達成になっている
常時雇用している労働者が100人を超える企業では、法定雇用率を下回る場合、障害者雇用納付金制度の確認も必要です。
ただし、納付金の計算だけで終わらせると、採用・定着の改善につながりません。不足人数、職務候補、入社後面談を同じ計画に入れます。
現場には「何人採るか」だけでなく、「どの業務を任せるか」「誰が相談を受けるか」「評価は何を見るか」を共有します。
未達成時の行政対応や採用・定着に向けた具体的な進め方を詳しく確認したい場合は、関連する記事もあわせて確認してください。
具体例#3
採用面接で配慮事項を確認したい
面接では、障害名や診断名を広く聞くのではなく、職務遂行に関係する条件を確認します。
たとえば、勤務時間、通院への配慮、指示の受け取り方、苦手な作業環境、必要な支援機器などに絞ります。
確認した内容は、本人の同意、共有範囲、見直し時期とセットで記録します。採用担当だけで抱え込まず、必要な範囲で人事・配属先と共有できる形にしておきます。
社内で作るチェックリスト
障害者雇用促進法への対応は、次の項目をチェックリスト化すると、担当者が変わっても運用しやすくなります。
- 常用雇用労働者数と短時間労働者のカウントの整理
- 2026年6月までの2.5%、7月以降の2.7%での対象判定と不足人数
- 採用する職務、必要スキル、勤務時間、配属候補
- 求人票・面接で確認する職務要件と配慮事項
- 本人同意を含む情報共有範囲
- 入社後1か月、3か月、6か月の面談予定
- 合理的配慮の相談先と記録方法
- 6月1日時点の報告、100人超の場合の納付金、支援機関連携の確認
法令対応の担当者だけでなく、配属先の管理職が見ても分かる粒度にしておくと、採用後の混乱を減らしやすくなります。
障害者雇用促進法に関するよくある質問
- 障害者雇用促進法は中小企業にも関係しますか?
-
関係します。法定雇用率の対象範囲は労働者数で変わりますが、差別禁止や合理的配慮は企業規模にかかわらず確認が必要です。
2026年7月以降は民間企業の対象範囲が37.5人以上に広がるため、従業員数が近い企業は早めに人数表を確認します。
- 障害者雇用促進法で企業に求められる義務は何ですか?
-
主な義務は、法定雇用率への対応、差別禁止、合理的配慮、雇用状況報告などです。
常用労働者100人超の事業主では、障害者雇用納付金制度も関係します。人数管理だけでなく、募集・採用・配置・定着の運用も確認します。
- 合理的配慮は本人の希望どおりに対応するという意味ですか?
-
その意味ではありません。合理的配慮は、本人と事業主が対話し、職場で能力を発揮するうえでの支障を調整するものです。
企業側は、職務上の必要性、実施可能性、過重な負担、他の従業員との業務分担を確認しながら個別に調整します。
- 法定雇用率を達成していれば対応は十分ですか?
-
十分とは限りません。雇用率を達成していても、差別禁止、合理的配慮、雇用管理、定着支援、情報管理の確認は続きます。
人数の達成と、働き続けられる職場づくりは分けて管理します。採用後の面談、職務調整、支援機関連携まで計画に入れます。
- 障害者雇用促進法と障害者差別解消法の違いは何ですか?
-
障害者雇用促進法は、雇用分野での障害者雇用、差別禁止、合理的配慮などを定める法律です。
障害者差別解消法は、行政機関や事業者による障害を理由とする差別の解消を広く扱います。雇用分野では障害者雇用促進法を中心に確認します。
まとめ
障害者雇用促進法は、雇用率の達成だけを求める法律ではありません。差別禁止、合理的配慮、職務設計、報告、納付金、支援機関連携まで含めて確認する法律です。
まずは、自社が対象事業主か、2026年7月以降の2.7%で不足が出るか、採用と定着の体制が分かれているかを確認します。
そのうえで、職務要件と配慮事項を切り分け、本人・現場・人事が見直せる運用に落とし込むことが重要です。
参考にした公的情報:e-Gov法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」、厚生労働省「障害者雇用対策」「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」「雇用分野における障害者差別の禁止、合理的配慮の提供義務」、JEED「障害者雇用納付金制度の概要」
