障害者雇用の離職率を下げるには、退職意向が出てから面談するのではなく、入社前から90日目までの確認項目を決めておくことが重要です。
離職は、本人の意欲だけで決まるものではありません。業務の切り出し、指示の出し方、相談先、合理的配慮の見直しが遅れると、本人も現場も小さな違和感をため込みやすくなります。
この記事では、企業の人事・現場責任者向けに、障害者雇用の離職率を見るときの考え方、早期離職の兆候、定着支援の手順を整理します。
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
離職率は初期の定着率と合わせて見る
障害者雇用の離職率は、採用した人数のうち一定期間内に退職した人の割合です。
採用人数が少ない企業では、1人の退職で率が大きく動きます。そのため、率だけで判断せず、入社後3か月、6か月、1年のどこで離職が起きたかを見ます。
| 見る指標 | 確認する内容 | 改善につなげる視点 |
|---|---|---|
| 3か月以内 | 入社直後の退職、欠勤増加、相談不足 | 業務説明、相談先、初期面談を見直す |
| 6か月以内 | 業務量、担当範囲、現場負担のずれ | 配慮と職務基準を再整理する |
| 1年以内 | 評価、成長機会、支援の属人化 | 面談頻度と外部支援の使い方を見直す |
障害者職業総合センターの調査研究では、ハローワーク紹介で一般企業に就職した障害のある方について、就職後1年時点の職場定着率が示されています。
| 障害種別 | 就職後1年時点の職場定着率 | 企業側の見方 |
|---|---|---|
| 身体障害 | 60.8% | 通勤、作業環境、業務負荷を継続確認する |
| 知的障害 | 68.0% | 作業手順、支援担当、習熟ペースを明確にする |
| 精神障害 | 49.3% | 体調変動、相談しやすさ、業務量を短い間隔で見る |
| 発達障害 | 71.5% | 指示形式、優先順位、感覚面の負荷を確認する |
この数値は、自社の離職率を直接判定する基準ではありません。自社では、退職時期、退職理由、配属部署、面談記録を合わせて確認します。
出典:障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2026年5月28日確認)
早期離職につながる兆候
早期離職の兆候は、退職したいという発言だけではありません。勤怠、業務、相談、現場負担の変化に先に出ることがあります。
兆候#1
欠勤・遅刻・早退が増える
勤怠の乱れは、体調、通院、業務負荷、人間関係、生活面の変化が重なって起きることがあります。
まず、いつから、どの曜日に、どの業務の前後で増えたかを確認します。勤怠だけを注意しても、原因が残ると再発しやすくなります。
兆候#2
質問や報告が急に減る
質問が減ることは、仕事に慣れたサインとは限りません。
聞きにくさ、叱られる不安、誰に聞けばよいか分からない状態でも起きます。質問してよい時間、質問先、記録場所を決めると動きやすくなります。
兆候#3
周囲が仕事を代行し始める
周囲が先回りして仕事を引き取ると、一時的には業務が回ります。
ただし、本人の担当範囲が曖昧になり、現場の負担も見えにくくなります。本人が担う範囲、支援する範囲、上司へ戻す範囲を分けます。
兆候#4
配慮内容が業務と合わなくなる
採用時に決めた配慮が、配属後の業務や繁忙期の働き方と合わなくなることがあります。
配慮は一度決めたら終わりではありません。業務内容、担当者、体調、職場環境が変わった時点で、本人と話し合いながら見直します。
兆候#5
現場から困りごとの相談が増える
本人からの相談が少なくても、現場側の困りごとが増えている場合があります。
教育担当だけが質問対応、ミス確認、本人面談、周囲への説明を抱えると、支援が続きにくくなります。現場側の相談窓口も必要です。
離職率を下げる初期支援の手順
離職率を下げるには、本人の努力に任せるのではなく、企業側が確認する項目とタイミングを固定します。
入社前から90日目までの流れ
- 入社前
担当業務、相談先、配慮事項、共有範囲を決めます。 - 30日目
指示の分かりやすさ、質問先、勤怠への影響を確認します。 - 60日目
業務量、配慮の効果、現場担当者の負担を見ます。 - 90日目
担当範囲、評価基準、面談頻度、外部支援の要否を整理します。
手順#1
入社前に業務と配慮を同じ表で整理する
業務一覧、必要なスキル、作業量、確認者、配慮事項を同じ表にします。
たとえば「電話対応を外す」だけではなく、代わりに担当する業務、評価する成果、繁忙時の応援範囲まで決めます。
手順#2
30日・60日・90日の確認日を決める
定着面談は、問題が起きた後だけに設定しないようにします。
30日目は指示、60日目は業務量と相談先、90日目は担当範囲と今後の目標を確認します。目的を毎回変えると、話す内容を準備しやすくなります。
手順#3
本人と現場の相談窓口を分ける
本人の相談先だけでなく、現場側が早めに相談できるルートも用意します。
厚生労働省の合理的配慮指針では、相談体制の整備、相談への適切な対応、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止が示されています。
手順#4
合理的配慮を話し合いと記録で見直す
合理的配慮は、障害のある労働者が職務を円滑に進めるための調整です。
実施が難しい場合も、できない理由を説明し、過重な負担にならない範囲で代替策を検討します。記録を残すことで、本人への説明と現場の判断をそろえやすくなります。
出典:厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」「合理的配慮指針」(2026年5月28日確認)
離職を防ぐ具体例
定着支援は、障害名だけで決めるものではありません。実際に困っている業務場面を分けて、本人と職場の両方が続けられる形に直します。
具体例#1
体調変動で欠勤が増えている
欠勤が増えた場合は、業務量、出社時間、通院、休憩、繁忙期の負荷を確認します。
対応例として、朝一番の集中業務を午後へ移す、週初の短い面談を入れる、欠勤連絡の方法を一本化するなどがあります。
具体例#2
指示の理解にずれが出ている
作業ミスが続くときは、本人の能力だけでなく、指示の形式を確認します。
口頭説明を短い手順書に変え、完了条件、期限、確認者を明記します。複数の指示が重なる職場では、優先順位を文字で残します。
具体例#3
現場担当者が支援を抱え込み始めている
教育担当だけが質問対応、ミス確認、本人面談、周囲への説明を担うと、現場側の疲弊が先に出ます。
人事は、担当者の負担時間を確認し、上司、人事、教育担当、相談窓口の役割を分けます。本人支援と現場支援を同時に整えます。
具体例#4
試用期間後に目標が曖昧になる
入社直後は手厚く支援していても、3か月を過ぎると面談や確認が急に減ることがあります。
次に増やす業務、残す配慮、評価する成果を決めます。支援を減らす場合も、本人と現場の両方に説明します。
社内だけで難しいときの相談先
早期離職の兆候が出ているとき、社内だけで原因を決めつけると対応が狭くなります。
外部支援は、本人を特別扱いするためではなく、職場適応を具体的に進めるために使います。
| 相談先 | 相談しやすい場面 | 企業側が準備すること |
|---|---|---|
| ハローワーク | 採用経路、助成金、職場定着の相談を戻したい | 採用経路、業務内容、困りごとの記録 |
| 地域障害者職業センター | 雇用管理、職務設計、職場適応の助言が必要 | 配属先、業務手順、支援履歴 |
| ジョブコーチ | 職場での作業、報告、対人面の支援を具体化したい | 支援目標、本人同意、現場担当者 |
| 障害者就業・生活支援センター | 生活面の変化が勤務にも影響している | 業務上の事実、試した対応、共有範囲 |
相談#1
ハローワークや採用経路に定着相談を戻す
採用時にハローワークや支援機関を利用している場合は、入社後の相談先としても連携できることがあります。
「退職しそうになってから相談」ではなく、勤怠変化、業務ミス、現場負担が見えた時点で早めに相談します。
相談#2
ジョブコーチは職場適応の支援として使う
ジョブコーチ支援は、職場適応に課題がある場合に、職場へ出向いて専門的な支援を行う制度です。
支援は、上司や同僚による自然な支援へ移すことも目的にしています。本人だけでなく、職場側の関わり方を整える視点で相談します。
相談#3
生活面が関係する場合は就業・生活支援センターにつなぐ
障害者就業・生活支援センターは、就業面と生活面を一体的に支援する機関です。
仕事の問題に生活リズム、通院、家庭環境の変化が関係している場合は、社内面談だけで完結させない方がよいことがあります。
出典:厚生労働省「事業主の方へ」「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」、労働局「障害者就業・生活支援センターのご案内」(2026年5月28日確認)
離職防止のチェックリスト
離職率を下げる取り組みは、面談の回数を増やすだけでは続きません。次の項目を、入社前から90日目までに確認します。
- 担当業務を作業単位で説明している
- 本人向けと現場向けの相談窓口を分けている
- 30日、60日、90日の面談予定を入れている
- 合理的配慮の目的、担当者、見直し日を記録している
- 勤怠変化を注意だけで終わらせず、業務負荷も見ている
- 現場担当者の支援時間と負担を人事が確認している
- 支援機関へ相談する条件を決めている
- 業務変更や上司変更のときに面談頻度を戻している
関連して確認したい記事
離職率の改善は、定着支援、入社後フォロー、面談、勤怠不安定時の対応と合わせて確認すると進めやすくなります。
よくある質問
最後に、障害者雇用の離職率や早期離職対策で企業側から出やすい質問を整理します。
FAQ#1
障害者雇用の離職率は何%なら高いですか?
業種、雇用形態、採用人数、障害種別、業務内容で変わるため、単純に何%なら高いとは言い切れません。
まずは自社内で、入社後3か月、6か月、1年の離職状況を継続して見ます。人数が少ない場合は、率よりも退職時期と理由を重視します。
FAQ#2
早期離職を防ぐ面談では何を聞けばよいですか?
「困っていることはありますか」だけでは、本人が答えにくい場合があります。
業務量、指示の分かりやすさ、相談先、体調への影響、通院や生活リズム、周囲との関係を項目に分けて聞きます。
FAQ#3
配慮を増やせば離職率は下がりますか?
配慮を増やすだけでは十分ではありません。
本人の職務が曖昧になったり、現場担当者だけに負担が寄ったりすると、別の離職リスクが出ます。仕事、配慮、支援範囲を同じ表で見直します。
FAQ#4
退職意向を聞いたら何から確認しますか?
まず、退職理由を一つに決めつけず、業務、体調、通勤、職場関係、配慮、評価のどこに支障があるかを分けます。
引き止めだけで終わらせず、会社として見直せること、本人の意思、外部支援の利用可否を確認します。
まとめ
障害者雇用の離職率を下げるには、入社前から90日目までの支援設計、合理的配慮の見直し、現場負担の把握、外部支援との連携が必要です。
まずは、30日、60日、90日の面談日を置き、勤怠、業務、相談先、配慮、現場負担を同じ記録で確認しましょう。
