就労移行支援から企業が採用する場合は、事業所に候補者紹介を任せるのではなく、業務内容、見学・実習、選考、入社後支援を分けて連携することが重要です。
まず行うべきことは、求人条件だけでなく、任せたい仕事、職場環境、選考で確認する配慮事項、入社後の連絡窓口を整理して事業所に共有することです。
この記事では、企業の人事担当者・現場責任者向けに、就労移行支援事業所と連携して採用を進める方法、確認ポイント、注意点を整理します。
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
就労移行支援は採用前後の連携先
就労移行支援は、一般企業等で働くことを目指す障害のある方に、就労に必要な知識・能力向上の訓練、職場体験、求職活動支援、職場開拓、就職後の定着相談などを行う障害福祉サービスです。
企業にとっては、応募者の就労準備状況を本人同意のもとで確認し、職場見学や実習、入社後の相談体制までつなげやすい連携先になります。
| 企業が連携できる場面 | 事業所に相談する内容 | 企業側で決めること |
|---|---|---|
| 求人前 | 仕事内容、必要スキル、勤務条件のすり合わせ | 任せる業務、勤務時間、指導担当 |
| 職場見学・実習 | 候補者が確認したい職場環境や作業内容 | 見学ルート、体験業務、評価観点 |
| 選考 | 本人が希望する配慮事項の共有方法 | 質問項目、評価基準、情報共有範囲 |
| 入社後 | 定着面談、支援者同席、困りごとの連絡方法 | 面談頻度、社内窓口、現場への伝え方 |
就労移行支援は人材紹介会社ではありません。採用可否を判断するのは企業であり、応募者本人の希望と同意を前提に連携します。
出典: 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」(2026年5月確認)
企業側が先に整理する4点
事業所へ連絡する前に、企業側で「採用したい人材像」だけでなく、実際に働く場面を説明できる状態にします。ここが曖昧なままだと、事業所も候補者に仕事内容を伝えにくくなります。
| 整理すること | 具体例 | 事業所に伝える目的 |
|---|---|---|
| 任せる業務 | データ入力、書類整理、清掃、軽作業、庶務など | 訓練経験や職場実習との接点を見つける |
| 勤務条件 | 勤務時間、出社頻度、休憩、繁忙期、通勤条件 | 本人が働き続けられる条件か確認する |
| 職場環境 | 音、電話、来客、立ち仕事、座席、指示方法 | 職場見学で確認すべき点を明確にする |
| 入社後体制 | 指導担当、人事窓口、面談頻度、支援者連絡先 | 採用後の定着支援を切れ目なく設計する |
採用前の段階で完璧な制度を用意する必要はありません。重要なのは、企業が変えられる条件、すぐには変えにくい条件、本人と相談して決める条件を分けておくことです。
就労移行支援から採用しやすい場面
就労移行支援との連携が向いているのは、応募者の準備状況と職場側の受け入れ条件を、採用前から具体的にすり合わせたい場面です。
場面#1
仕事内容を事前に見てもらいたい
事務補助、軽作業、清掃、データ入力など、業務内容を見学や体験で確認しやすい仕事は、就労移行支援事業所と相性がよい場合があります。
場面#2
応募者の訓練状況を踏まえて見立てたい
事業所での通所状況、作業訓練、報連相の練習、職場実習の経験などは、本人同意のもとで採用前の確認材料になります。
場面#3
入社後も支援者と連絡を取りたい
入社直後は、本人、現場、人事、支援者の認識がずれやすい時期です。連絡窓口と共有範囲を決めておくと、早い段階で調整しやすくなります。
場面#4
ハローワーク以外の地域接点を増やしたい
求人をハローワークだけに出している企業でも、地域の就労移行支援事業所と関係を作ることで、職場見学や実習の導線を広げられます。
企業が採用までに進める手順
採用までの流れは、事業所探し、情報共有、見学・実習、選考、入社後連携の順で整理します。順番を飛ばすと、入社後の支援が曖昧になりやすくなります。
| 手順 | 企業の動き | 確認すること |
|---|---|---|
| 事業所を探す | 地域の事業所、ハローワーク、WAM NETなどで候補を確認する | 対象地域、支援実績、職場見学の可否 |
| 求人条件を共有する | 業務内容、勤務時間、選考予定、配慮可能範囲を伝える | 仕事内容が具体的か、候補者に説明しやすいか |
| 職場見学を行う | 作業場所、休憩場所、指示方法、音や人の動きを見てもらう | 本人が不安を言語化できる場を作れているか |
| 実習を検討する | 短時間の作業体験や職場実習を設計する | 評価項目、事故防止、守秘、担当者を決めているか |
| 選考する | 通常の採用基準と配慮事項を分けて確認する | 障害特性だけでなく職務遂行性を見ているか |
| 入社後連携を決める | 面談頻度、支援者同席、連絡先を文書化する | 本人同意と情報共有範囲が明確か |
全国の指定障害福祉サービス等施設・事業所は、福祉医療機構が運営する障害福祉サービス等情報検索でも確認できます。
出典: 厚生労働省「障害者就労施設等情報」、WAM NET「障害福祉サービス事業所検索」(2026年5月確認)
初回連絡で伝える内容
就労移行支援事業所へ初めて連絡するときは、「採用したいので候補者を紹介してほしい」だけで始めないほうが安全です。企業側の状況を伝え、見学・実習・応募のどこから連携できるかを相談します。
| 伝える内容 | 例文 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 連絡の目的 | 障害者雇用で事務補助職の採用を検討しており、職場見学や実習の相談をしたいです | 採用直結なのか、見学から始めるのか |
| 仕事内容 | データ入力、書類整理、郵送準備を想定しています | 利用者の訓練内容と合う業務があるか |
| 勤務条件 | 週5日、1日6時間から開始し、状況により時間を相談できます | 通所状況や体力面との相性 |
| 職場確認 | 職場見学では作業場所、休憩場所、指示方法を確認してもらいたいです | 本人が不安を確認できる場を作れるか |
| 入社後連携 | 採用後も本人同意の範囲で定着面談の相談をしたいです | 就労定着支援や他機関への引き継ぎ可否 |
連絡後は、説明した内容をメールやメモで残します。候補者本人に伝わる情報、事業所だけに共有する情報、社内で検討中の情報を混ぜないことが重要です。
連携時に確認する情報
就労移行支援事業所と連携するときは、本人の障害名を詳しく聞くことよりも、仕事を続けるために必要な条件を確認します。
| 確認項目 | 聞き方の例 | 採用判断での使い方 |
|---|---|---|
| できる作業 | 訓練や実習で安定してできている作業は何ですか | 任せる業務の候補を絞る |
| 苦手な環境 | 音、電話、来客、急な変更で負担が出やすい場面はありますか | 配属先や作業場所を調整する |
| 指示の受け方 | 口頭、文書、チャット、チェックリストのどれが合いやすいですか | OJTの方法を決める |
| 勤務時間 | 訓練や実習では、どの時間帯が安定していますか | 開始時の勤務時間を設計する |
| 相談方法 | 困ったときに誰へ、どの方法で相談しやすいですか | 入社後の面談・相談窓口を決める |
| 共有範囲 | 支援者、人事、配属先で共有してよい情報はどこまでですか | 情報共有の過不足を防ぐ |
就労パスポートは、働く上での特徴、アピールポイント、希望する配慮などを整理し、事業主に伝えるためのツールとして案内されています。ただし、採用選考時の必須提出書類ではありません。
出典: 厚生労働省「就労パスポート」(2026年5月確認)
採用前に注意すべき線引き
就労移行支援との連携では、支援者がいる安心感だけで採用判断を進めないことが大切です。確認すべき線引きを事前に決めます。
注意#1
支援者の評価だけで採用しない
事業所の見立ては重要ですが、自社の仕事内容、勤務条件、評価基準に合うかは企業が確認します。支援者の推薦だけを採用理由にしないようにします。
注意#2
本人を抜きにして情報共有しない
支援者から詳しい情報を聞く場合でも、本人同意と共有範囲を確認します。採用後に現場へ伝える内容も、本人とすり合わせておきます。
注意#3
配慮事項と採用基準を混同しない
配慮が必要なことと、職務を遂行できるかは分けて見ます。配慮をすればできる仕事なのか、職務内容そのものを変える必要があるのかを整理します。
注意#4
実習を無償労働のように扱わない
職場見学や実習を行う場合は、目的、期間、作業内容、事故時の対応、守秘の扱いを明確にします。採用選考の一部として使うなら、評価観点も事前に決めます。
雇用分野では、募集・採用などの局面で障害者差別が禁止され、事業主には過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供する義務があります。
出典: 厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」(2026年5月確認)
入社後の定着支援まで決めておく
就労移行支援から採用する場合は、内定時点で入社後の相談先と面談頻度を決めます。採用できた後に支援を考えると、困りごとが起きたときの初動が遅れます。
就労定着支援は、就労移行支援などを利用して通常の事業所に新たに雇用された方の就労継続を図るため、企業、障害福祉サービス事業者、医療機関等との連絡調整や相談支援を行う制度です。
| 時期 | 決めること | 支援者と確認すること |
|---|---|---|
| 内定後 | 初日の流れ、持ち物、勤務時間、相談担当 | 本人が不安に感じている点 |
| 入社1か月 | 作業量、指示方法、休憩、通勤の調整 | 訓練時との違い、疲労の出方 |
| 入社3か月 | 評価基準、業務範囲、担当者変更への備え | 支援者同席面談の必要性 |
| 入社6か月以降 | 定着支援の継続方法、外部機関との役割分担 | 就労定着支援の利用可否や連携先 |
すべての就労移行支援事業所が同じ定着支援を行うわけではありません。採用前に、入社後に誰が、いつまで、どの範囲を支援するのかを確認します。
出典: 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」(2026年5月確認)
採用前チェックリスト
採用可否を判断する前に、次の項目を確認します。支援者の有無よりも、入社後に企業が運用できる状態になっているかを見ます。
- 仕事内容、勤務時間、雇用形態を候補者本人に説明できる
- 職場見学で確認してほしい場所と作業を決めている
- 実習を行う場合、目的、期間、作業内容、評価項目、担当者を文書化している
- 面接で確認する質問と、聞かない情報の線引きを決めている
- 合理的配慮の相談方法と、過重な負担になり得る条件を整理している
- 本人同意の取り方、支援者と共有する情報、現場へ共有する情報を分けている
- 入社後1か月、3か月、6か月の面談予定と社内窓口を決めている
- 就労定着支援、障害者就業・生活支援センター、ジョブコーチなど他機関との使い分けを確認している
未整理の項目が多い場合は、先に求人票や職務設計を見直します。候補者を探す前に受け入れ条件を整えるほうが、採用後のミスマッチを減らしやすくなります。
具体例3つ: 就労移行支援との連携
具体例#1
事務補助で採用したい企業
人事部で書類整理、データ入力、郵送準備を任せたいものの、どの作業なら安定するか判断できないケースです。
就労移行支援事業所に業務一覧を共有し、候補者が訓練で経験している作業と照合します。職場見学では、電話の有無、入力スピード、ダブルチェック方法を確認します。
具体例#2
現場が受け入れに不安を持つ企業
配属予定部署が「どう指示すればよいか分からない」と不安を持ち、採用後の関わり方が決まっていないケースです。
支援者同席で、指示は口頭か文書か、困ったときの相談先は誰か、作業ミスをどう伝えるかを事前に整理します。入社初期の面談日も内定時点で決めておきます。
具体例#3
実習後に採用を判断したい企業
清掃や軽作業など、実際の環境で作業してみないと相性を判断しにくいケースです。
実習の目的を「採用可否の判定」だけにせず、本人が職場を知る機会として設計します。評価項目は作業速度だけでなく、安全確認、報告、疲労の出方まで含めます。
関連記事
就労移行支援との連携だけで採用全体を完結させず、求人相談、面接設計、定着支援、地域の相談先も合わせて確認しておくと、役割分担を決めやすくなります。
よくある質問
FAQ#1
就労移行支援事業所に求人を出せば採用できますか?
採用を約束するものではありません。就労移行支援事業所は、利用者の就労準備や職場開拓、定着相談を支援しますが、応募意思、職務適性、企業の採用基準を確認する必要があります。
FAQ#2
面接に支援者が同席してもよいですか?
本人が希望し、企業側も目的を整理できるなら検討できます。同席の目的、発言範囲、面接評価に使う情報を事前に確認し、本人が答えるべき内容を支援者が代わりに答えすぎないようにします。
FAQ#3
入社後は事業所にどこまで相談できますか?
事業所や利用している支援サービスにより異なります。入社前に、定着面談の有無、連絡窓口、本人同意の取り方、就労定着支援や他機関への引き継ぎを確認します。
まとめ
就労移行支援から企業が採用する場合は、求人、見学・実習、選考、入社後支援を一つの流れとして設計します。
事業所には、仕事内容、勤務条件、職場環境、支援者と共有したい情報を具体的に伝えます。本人同意のもとで訓練状況や配慮事項を確認し、採用基準と配慮事項を分けて判断します。
採用後の定着まで見据えるなら、内定時点で面談頻度、社内窓口、支援者との連絡方法を決めておくことが重要です。
