障害者雇用の定着支援は、診断名だけで判断せず、業務事実・合理的配慮・記録・役割分担を継続的に見直す取り組みです。
「思ったように戦力化していない」「現場が抱え込みで疲弊している」「離職や処遇判断の前に何を整えるべきか」と感じている場合でも、業務の切り出し方や面談の進め方を見直すことで、改善の余地はあります。
この記事では、企業の人事・現場管理職・経営層に向けて、定着支援の基本、入社初期の面談、配慮の見直し、外部支援機関との連携を、現場で使いやすい形で整理します。
- 定着支援の基本
業務事実・配慮・記録・役割を分けて考える - 面談と配慮の見直し
初週・1か月・3か月・変更時に確認することを整理する - 現場との役割分担
人事・管理職・産業保健・支援機関の線引きを確認する - 外部支援機関の使い分け
ジョブコーチや障害者就業・生活支援センターの活用場面を見る
本記事は、有料職業紹介事業許可(13-ユ-317587)を取得しているセオリーズ株式会社の編集部が、各社の公式情報・求人情報・公的資料等を確認したうえで作成しています。
定着支援は「業務事実×配慮×記録×役割」で運用する
定着支援は、本人を特別扱いすることでも、現場に我慢を求め続けることでもありません。本人と会社が、仕事を続けるために必要な条件を、業務事実をもとに確認し直していく運用です。
雇用分野では、障害を理由とした差別的取扱いの禁止と、合理的配慮の提供義務が示されています。合理的配慮は、障害のある社員が能力を発揮するうえで支障になっている事情を、職場環境や業務手順の調整によって減らす考え方です。
ただし、合理的配慮は成果基準そのものをなくすものではありません。定着支援では、業務で何が起きているのか、どの配慮が必要なのか、誰が対応するのかを分けて整理することが出発点になります。
- 業務事実
いつ・どの作業で・何が起きたか、何が滞っているかを事実で見る - 合理的配慮
業務上の支障を減らすために、環境・手順・連絡方法を調整する - 記録
本人の意向、現場の状況、配慮の効果、見直し日を残す - 役割
現場管理職・人事・産業保健・支援機関の担当範囲を明確にする
出典:厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」「合理的配慮指針」
初動:入社前〜初週で決める3点
定着支援は、入社後に困りごとが出てから対応するより、入社前〜初週の段階で「職務の粒度」「配慮の翻訳」「相談経路」を整理しておくことが大切です。
最初に確認する項目を決めておくと、入社後の見直しも事実ベースで進めやすくなります。
| タイミング | 固めること | 主な担当 |
|---|---|---|
| 入社前 | 担当業務の作業分解、納期・品質・報告方法、 共有範囲、面談予定 | 人事+現場管理職 |
| 入社初日〜初週 | 相談先(日常/月次/健康)の明示、 1人面談で迷いを引き出す | 現場管理職+人事 |
| 変更が出たとき | 面談頻度を短期に戻す、配慮の前提を再確認 | 人事 |
初動#1
入社前に担当業務を作業単位で切り出す
「事務補助をお願いします」「軽作業中心です」のような広い記述で受け入れると、入社1か月で「何を任せていいか分からない」「本人も何が期待値か分からない」状態になりがちです。配慮の判断材料も評価の根拠も同時に曖昧になります。
業務範囲が粗いまま配慮を載せると、配慮が「業務上の支障を減らす調整」ではなく、「何となく負担を軽くする対応」に見えやすくなります。本人と現場の合意も「だいたいこのくらい」止まりになり、時間が経つにつれて評価で認識がずれやすくなります。
入社前に、担当業務をたとえば「請求書のデータ入力/入金消込確認/封入封緘/社内メール対応/在庫リスト更新」のように作業単位へ分解し、1作業ずつ次の5項目を埋めます。
- 納期
いつまでに、どのくらいの件数を - 品質
何をもって完了とするか(チェック観点を2〜3個) - 報告方法
誰に・どこに・どのフォーマットで - 質問先
迷ったときの1次窓口(先輩社員)と2次窓口(現場管理職) - 初月の到達量
通常戦力の何割を目安にするか
- 「事務補助」とだけ書いて現場へ渡す
- 忙しい現場のその都度依頼に任せ、担当作業を固定化しない
- 初月から通常戦力扱いで配分する
初動#2
配慮希望を「業務支障 → 環境調整」に翻訳する
本人から「集中できる席が欲しいです」「口頭指示は苦手です」と希望が出ても、そのまま受け入れるだけでは、現場側が「どこまで対応すべきか」と迷いやすくなります。反対に、診断名や面接時の説明だけで配慮を先回りすると、本人の希望や実際の業務支障とずれることがあります。
配慮を考えるときは、「どの業務で、どんな支障が出るのか」を間に置き、環境・手順・連絡方法の調整へ落とし込みます。間の段を飛ばすと、配慮が増え続けたり、業務基準が曖昧になったりしやすくなります。
入社前の擦り合わせ面談では、次のように1つずつ確認します。
- 人事
「『口頭指示は苦手』と伺っています。どの作業のときに、どう抜けやすいですか?」 - 本人
「複数指示を続けてもらうと、後半が抜けることがあります」 - 人事
「では、依頼はチャットでひとつずつ残す、優先順位は数字で付ける、というやり方で試させてください。2週間後の面談で続けるか変えるかを決めます」
翻訳の結果は「業務支障/対応/2週間後の見直し」の3列で残し、本人と現場管理職の双方が同じ表を持つようにします。
- 診断書や障害名から「この特性だからこうしておこう」と先回りで決める
- 「特別扱いはできない」と希望をそのまま却下し、業務支障を聞かない
- 希望を全部そのまま受け入れて、見直し日を決めずに固定する
初動#3
初週は成果より「相談経路」を1人面談で整える
入社初日に「何かあれば気軽に相談してくださいね」とだけ伝えて配属すると、初週で「誰に・何を・どのタイミングで」相談していいか分からないまま2週目に入り、相談自体が止まりやすくなります。集合教育で同じ説明を流しても、個別の相談経路は固まりません。
初週に必要なのは業務の成果よりも、相談できる状態を整えることです。日常質問の窓口、月次面談の担当、健康面の相談先を分け、本人がメモを残せる形で渡します。
初週の1人面談(15〜20分でも可)では、抽象的に聞かず、次の3つを順番にたずねます。
- 「今日、迷った作業はどれですか?」
- 「説明が分かりにくかった場面はありますか?」
- 「次に同じ作業をするとき、確認しておきたいことはありますか?」
記録は「作業名/本人の発言/次回までに会社が用意するもの/確認日」の4項目で残します。会社側の宿題まで書くと、相談が一方通行で終わりません。
- 「大丈夫?」「困っていることはない?」だけで終わる
- 集合研修や朝礼の声かけで個別面談を省略する
- 会話を口頭で済ませて記録を残さない
配慮の見直し:1か月・3か月・変更時
入社後の定着支援では、1か月・3か月・環境変更時の3つの節目で、確認する項目を切り替えます。同じ面談を繰り返すのではなく、配慮の効果、現場負担、業務水準、相談経路を節目ごとに見直すことが大切です。
- 1か月
配慮ごとの効果と、現場の追加負担を分けて点検する - 3か月
配慮と業務水準を1枚の表に統合し、評価で揉めない土台にする - 変更時
上司異動・業務追加・体調や通院の変更が起きたら短期間隔へ戻す
見直し#1
1か月目は「配慮の効果」と「現場負担」を分けて点検する
典型的に起きやすいのは、たとえば朝礼での口頭指示を「チャットで毎朝1件ずつ残す」と決めたものの、現場管理職が「毎朝の手間が大きい」と感じはじめ、配慮の継続自体に迷いが出るというケースです。本人面談だけ聞くと「助かっています」、現場ヒアリングだけ聞くと「負担が大きい」と判断がぶれます。
1か月目に効果と負担を一緒に語ると、配慮の継続・変更・終了の判断材料が混ざります。本人の自覚(助かっている/効果が分からない)と現場の感覚(再現性/負担)は、ずらして拾うのが基本です。
1か月面談では本人に対し、配慮1件ずつ「続けたい/変えたい/終了してもよい」の3区分で聞きます。同じ週に現場管理職とも15分程度の振り返りを行い、「対応にどれくらい時間が増えたか」「特定の担当者に負担が寄っていないか」「他メンバーへ分散できるか」を記録します。
- 本人面談だけで「配慮継続」と決めてしまう
- 現場の負担感だけで配慮を止めて、本人に説明しない
- 本人の努力不足と決めつけて、業務量・手順・担当者を見直さない
見直し#2
3か月目は支援量と業務水準を1枚に統合する
3か月目によくあるのは、「順調です」と現場から報告は上がるものの、いざ評価面談を開くと配慮内容と評価基準・業務水準が連動しておらず、本人と現場の認識がずれているという場面です。配慮一覧と評価シートが別ファイルで運用されていると、ほぼ確実に発生します。
配慮だけを記録すると業務水準が見えなくなり、業務水準だけを書くと本人への支援が抜けます。「配慮はしているが評価は厳しい」「評価は甘いが配慮は曖昧」というずれは、表が別なら必ず生まれます。
3か月目には、配慮内容・業務基準・報告方法・相談先を1枚の表へ統合し、本人・現場管理職・人事の3者で合意します。表にすると、配慮だけでなく、納期・品質・報告方法まで同じ画面で確認できます。
| 担当作業 | 合理的配慮(業務支障→対応) | 業務基準(納期・品質・報告) | 相談先・見直し日 |
|---|---|---|---|
| 請求書入力 | 複数指示が抜ける→チャットで1件ずつ依頼 | 1日30件、誤入力ゼロ、夕方17時に件数報告 | 1次:先輩A/3か月後 |
| 入金消込 | 口頭の補足は手元メモへ→補足はチャット併用 | 当日中、未処理は翌朝9時報告 | 1次:先輩A/3か月後 |
表を統合すると、「配慮を継続する/変える/終了する」の判断と、「業務範囲を増やす/据え置く/縮小する」の判断が同時にできるようになります。
- 配慮一覧と評価シートを別ファイルで運用し続ける
- 配慮を積み増しし続けて成果基準を曖昧にする
- 本人不在で「もう配慮はいらないだろう」と現場判断で減らす
見直し#3
変更(業務・上司・体調)が起きたら短期間隔に戻す
業務が安定すると、面談頻度を下げても問題ないことが多くなります。一方で、上司の異動、業務追加、繁忙期入り、体調面の変化について本人から申告があった場合は、安定期と同じ月次・四半期面談のままだと、配慮の前提が崩れたことに気づくのが遅れることがあります。
環境変化は、本人の業務支障の現れ方を変えます。同じ配慮が機能しにくくなったり、以前は必要だった配慮を見直せる状態になっていたりするため、面談間隔を一時的に短くすることが重要です。
次の4つを「変更トリガー」として定義し、いずれかが起きたら、面談頻度を2週間〜1か月間隔に戻して再点検します。
- 担当業務の追加・変更(種類が増える、難易度が上がる)
- 上司・1次相談窓口の異動
- 勤務時間・繁忙期・夜間対応の発生
- 体調・通院・服薬・家庭環境の変化について本人から申告があった場合
- 「安定しているから」と異動・業務追加後も月次のまま放置
- 変更トリガーを口頭運用にしてしまい、現場管理職が把握できない
- 変化の徴候を本人の「やる気の問題」として処理する
面談で聞く・記録する型
定着面談では、本人の気持ちを受け止めながら、業務事実・配慮の効果・現場負担を作業単位で確認します。質問の型と記録の型を固定しておくと、担当者が変わっても運用が安定しやすくなります。
| 確認軸 | 質問例 | 記録すること |
|---|---|---|
| 業務理解 | 今日迷った作業はどれですか/手順書に足したい情報はありますか | 作業名・本人の発言・追加説明・次回までの宿題 |
| 配慮の効果 | 続けたい配慮/変えたい配慮/終了してよい配慮はどれですか | 配慮ごとの3区分判定と再開条件 |
| 勤怠・体調 | 業務時間や連絡方法で調整したい点はありますか | 業務影響に絞った調整内容(医療情報は本人同意のうえ必要最小限で扱う) |
| 現場負担 | 質問対応がどなたに集中していそうですか | 役割分担、手順化候補、再分散の計画 |
面談#1
「分かりましたか」ではなく「迷った作業はどれ」と聞く
「指示は分かりましたか」「説明は大丈夫でしたか」と抽象的にたずねると、ほぼ反射的に「はい、大丈夫です」と返ります。本人に理解の自覚がない場合や、迷っていても言い出しにくい場合は、抽象的な質問では事実が出ません。
作業単位で聞くと、本人も具体例で答えやすくなり、現場側は「次に何を手順書に足すか」「説明をどう変えるか」を持ち帰れます。本人の理解度を責めるためではなく、手順書や説明方法の改善点を見つける質問として位置づけます。
面談では、次の3つを順番にたずねます。
- 「今日迷った作業はどれですか」(場面)
- 「次に同じ作業をするときに、確認しておきたい点は何ですか」(再現性)
- 「手順書に足したい情報はありますか」(設計改善)
面談#2
配慮は「続ける/変える/終了」の3区分で振り返る
定着支援を続けていると、配慮項目が少しずつ増え、どれが今も必要なのか分かりにくくなることがあります。必要性が曖昧なまま残ると、本人も現場も「止めると不安」「負担があるが言いにくい」と感じやすくなります。
面談では、配慮1件ごとに「続ける/変える/終了」の3区分で確認します。終了する場合も、支援を急に引き上げるのではなく、どの状況になったら再開を相談するかまで記録に残します。
- 続ける:
効果があり、現場負担も許容範囲。次回見直し日のみ更新 - 変える:
効果はあるが負担が大きい、または効果が薄い。対応内容を別案へ差し替え - 終了:
当該業務での支障が小さくなり、配慮なしでも運用できる状態。再開条件を本人と確認
- 四半期面談を「全件継続」で機械的に通す
- 本人不在で会社判断のみで配慮を削減する
- 終了した配慮の再開条件を書かない
やってはいけない初手(NG対応)
定着支援で起きやすいつまずきは、「障害名や診断情報を起点に判断する」「医療情報を何度も聞き、記録や共有範囲が分散する」の2つから生まれやすくなります。
先にNG対応を明示しておくと、現場の判断を業務事実ベースに揃えやすくなります。
NG#1
障害名で配慮を決めて本人不在で実施する
たとえば、選考時に「ASDの診断あり」と聞いた段階で、現場が独自に「マニュアルを渡しておけば大丈夫だろう」「複雑な指示は避けよう」と決めて配属する、というケースです。本人にとっては「相談していないことが先に決まっている」状態になり、初動から信頼が落ちます。
障害名だけで、必要な配慮を一律に決めることはできません。同じ診断名でも、業務への影響は人によって異なり、求められる配慮も変わります。診断書や面接時の説明から推測した配慮は、本人の希望や実際の業務支障とずれることがあり、現場では「効果が出ない」「配慮疲れ」の原因にもなります。
そのため、配慮を考えるときは、障害名や診断情報から先に決めるのではなく、本人に「どの業務で・どんな場面で・どう困るか」を確認するところから始めます。障害名・診断情報は背景理解にとどめ、実際の業務支障をもとに配慮を設計します。
設計した配慮は、本人合意のうえで現場へ共有し、見直し日まで含めて記録に残します。
- 診断書・面接情報から「こういう人だから」と先回りで配慮を固定する
- 本人に説明せず現場で配慮を実施する/変更する
- 「障害があるから難しい仕事は外そう」と本人に確認せず業務範囲を狭める
NG#2
医療情報を聞き続けて記録を分散させる
定着支援で意外と起きるのが、人事面談・産業医面談・現場面談・1on1のそれぞれで、診断名・通院頻度・服薬の話を本人が繰り返し聞かれる状態です。聞く側に悪意はなくても、本人にとっては「何度説明すればいいのだろう」と感じやすく、相談自体を控えるきっかけになります。
診断名や薬剤名そのものを、現場の業務判断の中心に置く必要はありません。業務上確認すべきなのは、「どの作業で・どんな場面で・どのような支障が出るか」「就業上どの範囲の調整が必要か」という情報です。
医療情報を扱う場合は、本人同意を前提に、必要最小限の範囲へ絞ります。産業医・保健師などの産業保健スタッフが関与できる場合は健康情報の相談窓口を分け、人事・現場には就業上必要な配慮情報に整理して共有します。
医療情報の取り扱いは、次のように整理します。
- 医療情報は本人同意を前提に、必要最小限の範囲で扱う
- 人事・現場には、作業上の支障や必要な連絡方法など、就業上必要な情報に整理して共有する
- 共有先と共有内容は本人と確認し、変更時には再確認する
- 現場管理職が本人に診断名・治療内容・服薬を直接たずねる
- 面談ごとに同じ医療情報を本人に説明させる
- 診断名や通院内容を雑談ベースで他メンバーに広げる
役割分担と見直しが進まない場合の対応
定着支援は、現場管理職1人が抱え込む形になると、繁忙期や異動で一気に崩れやすくなります。役割分担を先に書面化し、見直しが進まない場合の相談先や確認手順を持っておくことが、長期運用の鍵になります。
役割#1
現場・人事・産業保健・支援機関の線引きを書面化する
起きやすいのは、現場管理職1人が「日常質問の対応」「月次面談」「配慮の見直し」「記録の更新」「外部支援機関への連絡」までを抱え込み、繁忙期や異動で支援が途切れるという状態です。本人にとっても「全部を1人に見られている」感覚で相談しにくくなります。
1人集中は、担当者が異動した瞬間にゼロからやり直しになりやすい状態です。属人化を防ぐには、誰が何を持つかを書面化し、本人・現場・人事で共有しておくことが基本です。産業医・保健師などの産業保健スタッフが関与できる場合は、健康面の相談窓口も分けて整理します。
役割は次の4区分で書面化します。
- 現場管理職:
業務指示、日々の業務判断、配慮の現場運用、月次の振り返り - 人事:
制度・記録・面談の枠組み、合理的配慮の合意書、外部窓口の調整 - 産業保健(産業医・保健師など):
関与できる場合は、健康情報の相談、就業上の意見、健康面の助言を担う - 外部支援機関:
地域障害者職業センター/ジョブコーチ/障害者就業・生活支援センター
- 現場任せ放置(人事が記録と分担に関与しない)
- 人事のみで決めて現場と本人に共有しない
- 医療情報を現場だけで抱え、本人同意や共有範囲を整理しない
出典:厚生労働省「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」
計画#2
見直しが進まない場合は段階的に対応を検討する
3か月の試行、配慮の見直し、配置の調整を行っても、業務支障や業務量の差が残るケースはあります。この段階で焦って退職勧奨や自己都合退職の誘導に流れると、本人にとっても会社にとってもリスクが大きくなります。
労働契約法第16条では、解雇について客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められています。処遇判断や雇用継続に関わる判断は、合理的配慮の履歴、面談記録、業務事実、配置転換の可能性などを整理したうえで、個別事情に応じて慎重に検討する必要があります。
社内だけで判断しきれない場合は、次のように段階を分けて確認します。
- これまでの配慮履歴・面談記録・業務事実を時系列で整理する
- 配置転換の可能性(部署・業務内容・労働時間)を本人と検討する
- 業務範囲や評価基準を見直す場合は、正規の評価手続きに沿って確認する
- 社労士・弁護士に配慮履歴を見せ、手続きや判断の妥当性を確認する
- ハローワーク・地域障害者職業センターに事業主相談を行う
- 退職勧奨を手順として組み込む/自己都合退職に誘導する
- 配慮履歴を残さないまま処遇判断を進める
- 社労士・弁護士・支援機関の確認を経ずに最終段階へ進める
出典:e-Gov 法令検索「労働契約法 第16条(解雇)」
外部支援機関の使い分け
社内だけで配慮設計や役割分担を組み立てきれないときは、外部支援機関を併用します。ポイントは「困ってから探す」のではなく、平時に窓口を1本決めておくこと、本人同意を前提に共有範囲を整理することの2つです。
支援機関#1
ジョブコーチと障害者就業・生活支援センターを使い分ける
使い分けの目安は、相談したい内容によって変わります。
たとえば「入社1か月で業務理解と配慮設計の両立が難しい」「現場と本人の認識ギャップが大きい」段階では、ジョブコーチ支援が有効です。一方、「本人の生活面(通院・住居・家族)の不安が業務に影響している」段階では、障害者就業・生活支援センターの併用が向きます。
社内では業務理解と配慮設計の両立、生活面の不安への踏み込みのいずれも難しい場面が出てきます。ジョブコーチは職場での専門的支援、就業・生活支援センターは就業面と生活面を一体で相談できる窓口、と役割が異なります。会社が生活面に踏み込みすぎると関係が崩れるので、外部に役割を分けるのが現実的です。
使い分けの目安を整理します。
| 機関 | 主な使いどころ | 会社側の準備 |
|---|---|---|
| 地域障害者職業センター ジョブコーチ支援 | 業務理解・配慮設計・職場適応の専門支援 | 事業主相談→申請→計画→上司・同僚への移行計画 |
| 障害者就業・生活支援センター | 就業面と生活面(通院・住居・家族)を一体で相談 | 本人同意のうえ生活面の役割をセンターに分担 |
| ハローワーク・労働局 | 制度・助成金・処遇判断の前段相談 | 配慮履歴・業務事実・記録の時系列整理 |
- 困ってから慌てて窓口を探す(平時の関係構築をしていない)
- 本人同意なしに個別情報を支援機関へ共有する
- 会社が本人の家庭事情・通院内容に必要以上に踏み込む
出典:厚生労働省「事業主の方へ(高齢・障害・求職者雇用支援機構)」「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」、「障害者就業・生活支援センターについて」
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定着支援は、入社後フォロー、面談、支援機関連携、離職率の対策を分けて整えると、社内で運用しやすくなります。
自社の課題に近いテーマから確認し、必要に応じて面談項目や支援機関との連携方法を見直してみてください。
定着支援のよくある質問
- 本人が「困っていない」と言うときはどう聞けばいいですか?
-
「困っていますか」と聞くだけでは、反射的に「大丈夫です」と返りやすく、実際の状況が見えにくくなります。
「先週、依頼の量はどうでしたか」「説明が分かりにくかった作業はどれですか」「相談先は使えていますか」のように、業務量・指示・相談経路を分けて確認します。
- 現場から「配慮が多すぎる」と言われたらどう整理しますか?
-
まず、配慮ごとに「どの業務支障を減らしているか」「誰にどれだけ負担が乗っているか」を分けて確認します。
そのうえで、続ける配慮、変える配慮、終了を検討する配慮に仕分けます。感情論で判断せず、業務ルールとして説明できる形に整理することが大切です。
- 障害者雇用の定着支援は誰が担当すべきですか?
-
現場管理職だけに任せるのではなく、人事と現場で役割を分けるのが基本です。
現場は日々の業務指示や配慮の運用、人事は面談記録、合理的配慮の合意、外部支援機関との調整を担います。産業保健スタッフが関与できる場合は、健康面の相談窓口も分けます。
- 外部支援機関にはいつ相談すべきですか?
-
本人・現場・人事だけで配慮の見直しが止まる場合や、現場負担が一部に偏っている場合は、早めに相談を検討します。
業務理解や職場適応はジョブコーチ支援、生活面の不安が業務に影響している場合は障害者就業・生活支援センターが候補になります。
- 定着支援では何を記録しておくべきですか?
-
記録するのは、本人の発言だけではありません。担当作業、業務上の支障、実施した配慮、配慮の効果、現場負担、次回の見直し日を残します。
処遇判断や配置変更を検討する場合も、感覚ではなく時系列の記録があると、社内で確認しやすくなります。
まとめ
障害者雇用の定着支援は、本人の努力や障害名だけで原因を判断せず、業務事実・合理的配慮・記録・役割分担を分けて見直す運用です。
入社前〜初週、1か月、3か月、変更時の節目で確認する項目を決めておくと、配慮の効果や現場負担を整理しやすくなります。配慮は「業務支障 → 環境調整」に翻訳し、続ける/変える/終了の3区分で振り返ることが大切です。
見直しが進まない場合も、すぐに退職・解雇の判断へ進むのではなく、配置転換、業務範囲の調整、評価手続き、専門家確認、支援機関への相談を段階的に検討します。
- 職務を作業単位で分ける
担当業務、納期、品質、報告方法を明確にする - 初週に1人面談を行う
相談先と迷った作業を確認し、記録に残す - 配慮を定期的に見直す
続ける/変える/終了の3区分で整理する - 役割分担を書面化する
現場・人事・産業保健・支援機関の線引きを決める - 外部支援機関の窓口を決める
困ってから探すのではなく、平時から相談先を確認する
社内だけで定着支援の体制づくりを進めるのが難しい場合は、外部支援機関や専門家の活用も選択肢になります。
